金箔

金箔。文字通り“金”で出来た“箔”。
「映え」ることで有名な工芸品だが、実は金沢市が国内の99%ものシェアを誇っているのだ!
金箔と言えば金沢、金沢と言えば金箔。もはやそう言っても過言ではないだろう。
今回はそんな金箔について紹介する。

「映え」の最たる例である金箔ソフト。
(左: 箔一 本店箔巧館 提供 右:今井金箔 広坂店にて撮影)
豊臣秀吉が作らせたとされる「黄金の茶室」をモデルに作られた。壁はもちろん、天井や火災報知器に至るまで金箔で仕上げた豪華絢爛な一室だ。
(箔座本店にて撮影)

そもそも金箔って何?

金沢有数の名産である金箔。
装飾などで目にしたことはあっても、詳細を知る人はあまり多くないのではないだろうか。
ここでは金箔そのものについて解説しよう。

金メッキとは何が違う?

金箔は金メッキと似たようなものと思われているが、実は全くの別物である。
金メッキは、金が溶解しているメッキ液に対象物を浸し、電気を流してイオンを結合させることで金の被膜を生成するという仕組みである。
そのような性質上、大きすぎるものなどに金メッキを施すといったことは不可能だ。
一方、金箔で装飾する時は物に貼るだけでいいので、対象が大きくても装飾を施せる。

現代の技術でも、巨大な建築物にメッキ加工を施すことは不可能だろう。
また、金メッキは純金でしか施せないので色味が1つしかない。金箔は銀・銅を混ぜる割合によって様々な色味を出すことが出来る。
(今井金箔 広坂店にて撮影)

叩いて叩いて1/10000㎜

そんな金箔だが、どのようにして製造されているかご存じだろうか。
答えは単純。ひたすら打って叩いて薄く延ばしているのである。

ある程度薄く延ばした金を箔打紙(はくうちがみ)の間に挟み、機械でひたすら打つ。熟練の職人が手作業で位置を調整する。
(箔座本店にて撮影)
打った金箔を、竹製の道具を使って所定の大きさに切り揃える。竹製の道具を使うのは、手で触れると静電気でくっつき、破れてしまうためだ。
(箔座本店にて撮影)

その薄さは圧巻の10000分の1ミリメートル!! と言っても想像がつきにくいだろう。
具体的に言うと、十円玉の1/3の大きさの金から約畳1畳分の大きさの金箔が生産できる!

金色のテーブルで会議中の革命戦士達。まるでセレブのお茶会のようだ。

分かりやすくするため、グランゼーラにあるモーションキャプチャールームで例えよう。
キャプチャールームの床面積は畳約32畳分。
壁と天井も合わせた合計面積は畳約120畳分に相当する。
つまり十円玉40枚分の金があれば、キャプチャールームの床・壁・天井全てを金色に染め上げることが出来るのだ!

金箔の多岐に渡る用途

金箔の用途は工芸品や料理の装飾などが挙げられるが、それ以外はあまり知られていない。
ここで筆者が特に驚いた使い道をいくつか紹介する。

1.金箔入り美容品

化粧品に金箔を配合した品。
金は、肌にハリや弾力をもたらし、美しい肌に導くといわれているらしい。

(箔座本店にて撮影)

2.サングラス

見た目からして斬新な逸品。
金箔はその薄さ故に青い光が透過するので、見えなくなるのではなく景色が青く見える。

(今井金箔 広坂店にて撮影)

3.ドレス

かのパリコレで登場した煌びやかなドレス。
1/10000㎜の金箔を正確にカットする技術、布に貼る技術も世界に知れ渡った。

4.エンジン

金箔の高い遮熱性、軽さを買われ、マクラーレンF1のエンジンルームに使用されたという記録が残っている。

もちろん金箔の用途はここに紹介したものだけにとどまらない。
世界的に注目されたものから普通は目につかない場所まで、多種多様な用途がある。
我々が気付いていないだけで、金箔は意外な所で人々の生活を支えているのかもしれない。

金沢と金箔の関係性、シェア99%の理由とは……

最初にも記したが、日本の99%もの金箔が金沢で生産されている。
99%という圧倒的な数字……これは何か裏があるに違いない!
かくして我々は金箔の真相に迫る調査に踏み切った。

金箔づくりを支える気候

金箔づくりにどうしても欠かせないものがある。それは、金箔づくりに適した気候だ。
金箔の薄さは1/10000㎜。この薄さは、風どころか静電気でも破れてしまうほど繊細なのだ。
そんな金箔づくりにおいて、「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉が浸透しているほど降水量が多く、年間を通して湿度が高い金沢の気候は最適だったのだ。

密造の歴史……

金沢の金箔づくりの歴史を年表でざっくりとまとめると、

1593年当時の加賀藩藩主であった前田利家は、かの豊臣秀吉から金箔の製造を命じられる。
1667年江戸幕府は貨幣制度の統一のため金・銀・銅を管理統制する。
1696年幕府は箔を厳しく統制し、 江戸と京都以外での金箔・銀箔の生産が禁止される。
1808年加賀藩は焼失した金沢城・二の丸御殿の再建のため、京都から箔職人を呼び寄せる。
この間、加賀藩は呼び寄せた箔職人の技術を模倣し、金箔の密造を行っていた。
幕府から何度も箔打禁止令が出されたにも関わらず、密造を止めることはなかった。
1864年幕府から金沢城の修復や藩の御用箔に限り、箔を打つ許可を得る。

となっている。

そして明治維新に伴って箔の統制が解除され、加賀の金箔が一気に注目を浴びる。
その理由は以下の通り。

・金箔を作るにも質の悪い素材しか入手できなかった密造時代のおかげで、技術力が向上した
 ↳より金を薄くできるので、同量の金から比較的多くの金箔を生産できる
  ↳他地域よりも金箔が安い!

・金箔の質は、箔打ちの際に間に挟む箔打紙(はくうちかみ)の質に左右される
 ↳加賀の良質な水が、良質な箔打紙を生産するのに最適だった
  ↳他地域よりも金箔の質が良い!

このように、価格・品質の両面で他地域のものより飛び抜けて優れていたのだ。

気候に恵まれ、価格・品質においても他を圧倒していた加賀の金箔。
現在に至るまで金沢の金箔が高く評価されているのも頷けるだろう。

写真は現在の金沢城・二の丸広場。金箔密造の発端だったのかもしれない金沢城・二の丸御殿があったとされる場所だ。藩主の住居として建てられたが、火災で焼失した後に復元はされていない。

さて、ここで1つの疑問が生まれる。
「幕府が”金箔の生産”を禁止しているのに、加賀藩が金箔づくりを続けたのはなぜか?」
この疑問を解明するため、我々は最後の調査に乗り出した!!

グランゼーラが考える金箔密造の理由(大いに創作要素アリ)

……が、答えを見つけることができなかったので、グランゼーラが推測を立ててみた!!

1.加賀藩の金策説

当時の宗教は浄土真宗、寺院や仏像の製作には金箔が欠かせない。
このような状況下であれば、幕府非公認の金箔でも飛ぶように売れたに違いない。

2.加賀藩の倒幕戦略説

当時百万石を誇った前田家に天下統一の野心がなかったとも言えまい。
大量の金を確保し裏で流通させ、幕府の貨幣制度を混乱させようとしたのかもしれない。

3.京都の箔職人、絶世の美女説

京都から箔職人を呼び寄せたが、その職人が美しすぎたという説。
女職人に一目惚れした男共の前では、幕府の命など些細なことだったのだろう。

4.宇宙人の陰謀説

加賀に不時着した宇宙人に洗脳され、UFOの修理のために金箔を作らされていたという説。
京都の美女職人も片棒を担いでいた……⁉

……と、いくつか案は出してはみたものの、確証はどこにも存在しないのであしからず。
加賀の金箔密造の歴史について詳しい方がいたら、ぜひとも教えていただきたい。

いざ、箔貼り体験!!

ここまで金箔の魅力や歴史について紹介してきたが、筆者の金箔への興味が膨れ上がった。
という訳で、箔一 本店箔巧館にて、金箔貼りを実際に体験してきた。

実際に完成したものがこちら。
では、どのようにして制作したのかを順を追って解説しよう。

①まずは難易度選択

今回の箔貼り体験では、難易度別に3つのコースが用意されている。

・短時間で気軽に体験ができる「見習いコース」
・デザインシールで名人技を再現できる「名人コース」
・一から全てを自分でデザインする最高難度の「仙人コース」

悩みに悩んだ結果、仙人コース、その中でも最も面積の大きい丸形トレーを選択!
所要時間(予定)は約50分。筆者の芸術魂に火が付いた。
金箔の貼り方についての説明を終え、いざ制作開始!

②デザインを考える

筆者が選択した仙人コース・丸形トレーの初期状態。横に置いてあるハサミから、その面積が伺えるだろう。
悩みに悩んだ末、グランゼーラのロゴを制作することに決めた。「G」の角度が重要(のはず)。

③マスキングテープで形を作る

マスキングテープで円を描くことは難しかったので、正多角形を作る要領で円を表現する。この作業で作品のクオリティが決まると言っても過言ではない。
完成したグランゼーラのロゴがこちら。指紋でトレーが汚れているのはご愛敬。
完成したデザインがこちら。グランゼーラのロゴを中心に、扇子のシール(別売り)や三角、四角、ラインを散りばめた。実はこの時点で1時間半が経過している。

④金箔貼り

ベタ貼り、もみ散らし、重ね張りという技法を駆使し、繊細に、時に豪快に箔を貼っていく。

そして保護のための薬剤を塗り、最後にマスキングテープを剥がせば……

完成!!

我ながら中々の出来ではないだろうか。

こうして仙人コースを無事に修了した。
ちなみにかかった時間は当初の予定を1時間以上オーバーした約2時間半。
金箔仙人を名乗るにはまだまだ先が長い……。

今回お世話になった箔一 本店箔巧館は、箔貼り体験ができるだけでなく金箔の歴史や世界各国の金箔事情など、金箔について幅広く学べる施設になっている。
また、現代の技術を駆使した展示もあり、様々な形で金箔を楽しむことができる。
金箔仙人を目指すなら一度は訪れておきたい場所だ。

1万枚以上の金箔を貼りめぐらせた「金箔の間」。プロジェクションマッピングを搭載しており、燃え盛る炎の中に前田利家公モデルの金の甲冑が鎮座する光景は圧巻の一言。
(箔一 本店箔巧館 提供)
金箔の間に飾られている前田利家公モデルの甲冑は、バーチャル上で身に着けることができる。甲冑の重さを感じないのでポーズは自由自在だ。
(箔一 本店箔巧館 提供)

グランゼーラが提案!! 金箔の新たな使い道

金沢の名産“金箔”について述べてきたが、 グランゼーラが金箔の新たな使い道を提案する。
これが実現できれば、金箔の地位を格段に飛躍させることが出来るに違いない!!

金箔缶ジュース

こんなゴージャスな見た目の缶、きっと誰もが「捨てたくない!!」と思うだろう。
結果ゴミが減るので、非常にエコな品だ。

金箔扇風機

スイッチを入れると風と共に金粉が舞う。
金は除菌効果が期待できるので、ゴージャスかつクリーンな部屋になることだろう。

金“箔”沢

金沢が金箔の産地であることをアピールするのにこれ以上の案は無いだろう。
ちなみに、金沢市の面積は468.6㎢。この面積を金箔で埋め尽くすには約514tの金が必要だ。

金箔R戦闘機

バイドの襲撃に備え、ボディを金箔で覆ったR戦闘機だ。
実は「B-5B “GOLDEN SELECTION”」という金色の機体が存在するが、なんとその機体は純金製ではなく金箔で覆われていたのではという疑惑が持ち上がっている。
開発資金が足りず、やむなく金箔を使用したのだろうか。

編集後記

今回の特集は金沢を代表する工芸品の“金箔”でした。
筆者は長年金沢に住んでいながら、金箔のことを何も知らずにいました。
気になって少し掘り下げてみると、次から次へと興味深い使い道やら歴史が……。
その勢いのまま金箔体験に突入までしてしまいました。

箔貼り体験を経て金箔の世界の奥深さを思い知りました。
皆さんも、金箔の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。


ここで、筆者が箔貼り体験で作成した「金箔グランゼーラトレー」販売のお知らせです。
世界に1つしか存在しないこのトレー、なんと大特価の200,000円で販売いたします!

……という情報をぐらんぜーら購買部に掲載する前に、社内で買い手が見つかりました。
彼も大喜びだったので、制作者としても非常に清々しい気分です。

ちなみに、トレーは体験含め2,000円で作成できます。



<企画・制作・文責> 谷具
<撮影> 谷具、 いさや
<統括> 九条一馬
<サイトデザイン> とーふ
<イラスト> しょう
<画像加工> しょう、たかさく
<渉外> まゆみん
<監修> よしぞう、ごろりん、まゆみん
<協力> 箔一 本店箔巧館今井金箔 広坂店箔座本店
<参考文献>
日本の金箔は99%が金沢産( 北國新聞社出版局 )
加賀金沢の金箔( 下出積与 )

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