湯涌温泉

金沢市内の歴史浪漫あふれる温泉郷

様々な顔を持つ金沢市

石川県の中心である金沢市。金沢市には幾つかの顔がある。南町を始めとするビジネス街、グランゼーラや県庁がある副都心、片町(かたまち)・竪町(たてまち)・香林坊(こうりんぼう)などの繁華街・商業地区、兼六園・武家屋敷・ひがし茶屋街などの歴史・伝統地区、そして富山県との県境に広がる山岳地帯。金沢に山岳地帯があることに意外さを感じる方もいらっしゃるかもしれないが、今回はこの「山岳地帯」にある金沢の奥座敷、「湯涌温泉(ゆわくおんせん)」を特集する。

様々な魅力がバランス良く混在する金沢全てのエリアを、容易に行き来ができる

長い歴史がある温泉郷

開湯伝説にちなんで名前が付けられた「総湯 白鷺の湯」

一見、普通の温泉街に見える湯涌温泉だが、開湯はなんと718年(養老(ようろう)2年)という歴史の古さ。紙すき職人が、冬の泉で白鷺(しらさぎ)が身を浸している姿を見つけ、不思議に思い近づいたところ、湯が涌き出ていた事から「湯涌温泉(ゆわくおんせん)」と名付けられたという。温泉なんだから湯が涌いているのは当たり前だとツッコミを入れたくなるが、温泉の中の温泉とも呼べる、実に分かりやすいネーミングだと言えるだろう。見習いたい。

多くの人々に愛されてきた湯

開湯以来、湯涌温泉は様々な人々に愛され、現代に残っている。江戸時代には、前田利家で知られる加賀藩の一族、明治時代では、竹久夢二(※)を始めとした画人・文人たちに愛用されてきた。昭和になると、東洋一と称されるほど豪華絢爛を極め、昭和天皇・皇后両陛下が宿泊されたことで知られる白雲楼ホテルが存在した。
※竹久夢二たけひさゆめじとは?
岡山出身の画家・詩人で、独特の美意識に基づいた美人画や詩で知られている。旅先で湯涌温泉を気に入り、愛人と同棲までしていたという。画家といえば一見、潔癖なイメージだが、かなり自由奔放な人物だといえるだろう。うらやましい限りだ。

竹久夢二/「黒船屋」 (wikipediaより引用)

現代に残る小さな温泉

時の流れから切り離された空間は、いつの時代の人からも愛されている

今の世に古き良き伝統を伝える9つの旅館と、1つの銭湯が残る温泉街となっており、金沢市内の山奥にひっそりと佇んでいる。

伝統と創作が根付く場所

湯涌温泉のイベントと言えば、氷室開きが挙げられる。冬場に積もった雪を入れ保存する「氷室」と呼ばれる特殊な小屋に雪を保存し、6月にその氷を取り出す氷室開きが行われる。一見、ただの山小屋に雪を詰め込んで固め、取り出すだけのように見えるが、人類の叡智の結晶であり、昨今流行している省エネブームの先駆けと言えるだろう。他にも、画人・竹久夢二が湯涌温泉を愛用した事から作られた「竹久夢二記念館」や重要文化財である多賀家などの武家邸宅周辺を江戸風に改修した「湯涌江戸村」、様々な伝統創作が体験できる「金沢湯涌創作の森」など、伝統と創作が根付いた温泉地である。

言わば昔の冷蔵庫。貴重品だった氷を庶民に普及したのも加賀藩だとか

歴史に偽りなし?開湯1300年の温泉の効能

今に残る開湯1300年の温泉。とりあえず大体何にでも効く

温泉と言えば気になるのは効能。弱アルカリ性で無味無臭の泉質は、神経痛・筋肉痛・関節痛などに効果があり、冬の寒い時期などにつかると、天にも昇る心地になれることは間違いない。一見普通の温泉に見えるかもしれないが、実際に使ってみるとみるみる疲れが溶け出していくように感じられ、命の湯ともいうべき回復効果を持った温泉であると言えるだろう。

変わりゆく温泉郷、アニメの力

若者たちが集う温泉郷へ

この温泉郷が舞台となったアニメがあるのをご存知だろうか。2011年4月~9月に放送していた、アニメ「花咲くいろは」。ひょんな事から親元を離れ、祖母が経営する旅館で働くことになった主人公「緒花」の成長していく姿を描いたこの作品は、リアリティあふれるキャラクターなどで、一躍人気作品となった。湯涌温泉は、作品内に登場する「湯乃鷺温泉」のモデルとなっている。旅館はもちろん金沢市内の至る所にポスターが張られているほか、湯涌温泉名物「柚子小町」に花咲くいろはパッケージが登場するなど、展開も盛んである。地元金沢のみのブームに思われるかもしれないが、アニメのクオリティーの高さ、ストーリーの魅力、そして温泉街という設定が高い次元で融合したことで全国的なブームとなり、多くの若者が日本各地から訪れたという。

アニメ内で見た風景に出会える「聖地巡礼」ができる アニメと実際の風景を見比べると、より一層楽しめる事間違いなし

創られた神祭を現実に

前代未聞の人数が押し掛けたぼんぼり祭り。旅館も大忙しだったとか

小さな温泉郷、湯涌。そんな湯涌に、5000人が詰めかけた日があった。2011年10月9日、花咲くいろは内に登場する架空の祭り「ぼんぼり祭り」が実際に催されたのである。しかも、ただのアニメイベントではなく、実際に作中のぼんぼりをつるし、神事を執り行うという徹底ぶり。こちらアニメ放映時の一過性のものだと思われるかもしれないが、なんと!2012年も開催が決まっており、まだ正式な開催日が決まっていないにも関わらず、すでに旅館は予約でいっぱいだという。恐るべし「花咲くいろは」パワー。「花咲くいろは」は金沢の伝統を作る存在であると言えるだろう。

金沢の山奥にある、小さな温泉郷が、1300年もの間続いてきた理由。それは誰もがどこか懐かしさを覚える、「魂のふるさと」に帰ってきた気がする、そんな場所だったからではないだろうか。そんな歴史と伝統に加え、新たにアニメという若者にアピールする強い魅力が加わったことで、これからも、きっと時代を越えて愛されていく温泉郷であり続けるに違いない。

花咲くいろは公式サイト

編集後記

今回この記事を書くにあたり、筆者は学生時代の友人10名とともに湯涌温泉に乗り込んだ。酒盛りを兼ねて取材に臨んだのだが、そんな浮かれた調子の取材原稿が採用されるはずもなく、本質追及主義であるグランゼーラの厳しさを痛感する結果となった。
一見、いつも陽気に振る舞い、こんなことではへこたれていないように見える私だが、内心、深く傷付いており、今回ばかりは立ち直れないかもしれない。この心の傷は花咲くいろはの心温まるエピソードと、湯涌温泉のお湯でしか癒せないと思い、今日も湯涌でひと風呂浴びてから出勤する私の姿があった。

<制作・文責>タイプリュータ
<デザイン>かっくん
<監修>九条、みいはあ、管次郎
<協力>湯涌温泉観光協会花いろ旅館組合株式会社ピーエーワークス

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