千里浜なぎさドライブウェイ

砂浜を自動車で駆け抜けろ!

今回のテーマは、金沢ライフマップ史上もっとも金沢から遠い場所。グランゼーラから北北東へ車で1時間あまり海沿いへ。金沢市を出て、津幡つばた町を越え、かほく市を越えたところに、その砂浜はある。宝達志水ほうだつしみず町から羽昨はくい市に至る「千里浜ちりはまなぎさドライブウェイ」。日本で唯一、「道路」として普通に走ることのできる砂浜だ。この総延長8kmの観光道路は、舗装はおろか、砂利すら敷かれていない。自然の砂の上を通る、天然のドライブウェイなのだ。このように車で波打ち際を走ることのできる砂浜海岸は、世界でも3ヵ所だけ。アメリカのデイトナビーチ、ニュージーランドのワイタレレビーチ、そして、日本の千里浜海岸である。

ごく普通の自動車が自然の砂の上を走る
「川あり」の標識あれど川はどこにも見当たらない。昔は本当に川があったそうな
夏は海水浴場にもなるため、海の家が建ち並ぶ
海の家と海の間を車が横切るという珍しい光景
千里浜では、砂像づくりも名物のひとつとなっている
2012年は4月28日から砂像の制作が開始されており、10月31日まで展示される
!?

なぎさドライブウェイ誕生秘話

千里浜なぎさドライブウェイ」の名が全国的に知れ渡ったのは そんなに昔のことではない。三十数年前、ある観光バス運転手が、「広々とした波打ち際を思いっきり走れたら」と、空バスを試走させたのがはじまりだという。やりたい放題な運転手である。

ダイラタンシー現象 なぜ自動車が走れるのか?

そもそも普通の砂浜は、ほとんど自動車が走ることなどできない。よほどパワーのある四駆で、水分を含んで締まっているところを注意深く選ばなければ、すぐにタイヤが砂の中に滑り込んでハンドルの操作が効かなくなってしまう。なぜ千里浜海岸に限って、普通の軽自動車でもスイスイ走ることができるのか?その鍵は、「ダイラタンシー」と呼ばれる現象である。

ダイラタンシーとは?

ある種の細かい固体粒子と水を混ぜてドロドロ になったものを、「ダイラタント流体」と呼ぶ。このような混合物の粒子は、普段はもっとも隙間の小さくなるように並んでいる(図・上)。 「粒子の間には水が入り込んで潤滑剤の役割を果たし、ドロドロとした液体になっている。しかし、 このような粒子の並び方は外側からの力に弱いため、力を受けると図・下のような並び方に変化する。そうすると、粒子間の隙間が大きくなり、外側にあった水が内側に入り込む。潤滑剤を失った外側は、固体のように動かなくなるというわけだ。力を加えるのをやめると、再び外側に水が戻ってきて、ドロドロになる。このような性質を「ダイラタンシー」と呼ぶ。

かんじろう博士の実験コーナー

サイエンスプランナー・かんじろう博士が、身近にあるものを使って、楽しく不思議な科学の世界を教えてくれるコーナー。今回はダイラタンシーを一緒に体験してみよう。

以下のものを用意しろ!

用意するものは片栗粉と水とボウルだけ。片栗粉は、コーンスターチでも代用できるぞ。

ダイラタント流体を作れ!

1)ボウルに片栗粉を入れる
2)片栗粉を入れたボウルに水を入れてかき混ぜる。傾けるとドロッと流れるくらいまで、水の量を調整する
3)完成!

ダイラタンシー現象を目撃せよ!

1)強く握り締めて、指の形に固まったダイラタント流体
2)手を開いてしばらくすると、塊がトロッとしてくる
3)みるみるうちにドロドロに溶けて元通り。不思議だね!

千里浜形成のメカニズム

千里浜の砂は粒子の径が0.15㎜程度(普通の砂浜では0.8㎜程度)と非常に細かく、しかも粒の大きさが揃っている。そのうえ、地盤が適度に湿っている。そのため、砂浜を上から押さえつけると、ダイラタンシー現象によってアスファルトのように固くなり、車で走ることができるのだ。

① 千里浜の南側に位置する手取川などの河口から土砂が流れだす。
② 流れだした土砂のうち、細かいものは沖まで漂う。
③ 沖まで出た土砂は、対馬海流によって北上する。
④ 北上する土砂は、千里浜の北側に位置する滝崎岬がぶつかるところで流速が弱まる。
⑤ 流速が弱まってUターンした土砂が千里浜に堆積する。

消えゆく千里浜を救え!

そんな世界的にもたいへん珍しい性質を持つ千里浜。しかし、1990年頃 を境に、その貴重な海岸が年々浸食されていっているという。1995年には平均約50mあった砂浜が、2010年には35mまで後退している。年平均で約1mほども浸食されているのだ。特に浸食の激しい千里浜インターチェンジ付近では、92mから43mヘと、砂浜が半分以下になっているという。浸食の原因としては、周辺の河川の護岸や手取川ダムの建設など諸説ある。いずれにせよ、このまま浸食が続けば2050年頃には砂浜は消滅することになる。

砂浜の幅は季節によって大きく変動するが、長期的には年々狭くなっていることがわかる

千里浜再生プロジェクト

石川県が立ち上げた「千里浜再生プロジェク ト委員会」は、浸食を食い止めるための様々な対策に取り組んでいる。1984年から年間5500㎡の砂を海岸に入れて養浜を行なっているほか、2009年には、波の勢いを削ぐため、 長さ150m・幅30mの人エリーフを、今浜いまはまインターチェンジ付近から1km南の沖合に設置した。その結果、この付近では人エリーフ設置前は55mだった砂浜が、3年後の2012年には60mと、5mの回復を見せた。今 後も、他の海岸への影響を見極めながら人エリーフの増設を検討していくという。

金沢沖への土砂投下実験

人エリーフに続く新たな砂浜再生のための実験が、2012年度中の実施を予定されている。その内容は、金沢港の岸壁の整備で出る年間1~2万㎡の土砂を港の沖合で投下し、海流に乗せて千里浜に砂を供給するというもの。実に壮大なプロジェクトだ。

募金活動

2012年、羽咋市と宝達志水町は千里浜保全活動のための募金活動を開始した。市役所の総合窓口課のカウンターに募金箱が設置されている。寄付した人には、千里浜再生プロジェクトオリジナルステッカーがプレゼントされる。なお、5月までの募金総額は5万495円。

千里浜走破行全記録

というわけで、ここからはかんじろう博士に変わりまして、私タイプリュータが、実際に千里浜なぎさドライブウェイへ愛車で向かった様子を動画でお届けします。グランゼーラから、「能登有料道路」を日本海に沿って走ること1時間。
泣きながら走った砂浜と、潤んだ瞳にしみる夕陽… ああ、千里浜よ、永遠なれ!

グランゼーラから、千里浜なぎさドライブウェイへの道のりを、車載カメラで完全収録。 金沢から千里浜への、バーチャルドライブをお楽しみください。

千里浜なぎさドライブウェイから、日本海に沈みゆく陽を撮影。
日本海側ならではの、海に沈む夕陽をご覧ください。

編集後記

砂と潮にまみれた愛車を大切に洗車し、帰宅した筆者。
ドライブウェイの終点にあった「千里浜レストハウス」で購入した、九谷焼の湯呑みとはまぐりの粕漬けを食卓へと並べた。
疲れた身体に染みわたる銘酒「風よ水よ人よ」と、それによく合うはまぐりの粕漬け。

ふと、千里浜で見た夕焼けが脳裏をよぎる。
程よく回った酒が、あの時、思わずこぼれた涙の理由を気づかせてくれた。

一昨年、この業界に入るべく何十社と就職活動を繰り返していたとき。
ついに終わりを告げた戦いのあと、大阪で見たあの夕焼けを、思い出したからだ。
あの時見た夕焼けは、千里浜のそれとは少しちがって見えたけど、見たときの気持ちはなにも変わらない。

今の僕は、あの時なろうとしていた人間になれているのだろうか?
あの頃の僕が思った、理想に向かって進めているのだろうか。
この問いに答えてくれる人はいない。酒を飲み干し、床へと就いた。

千里浜から見た、夏の日本海に沈む夕日。
きっとなにかを思い出し、思わず涙がこぼれる… そんな素敵な砂浜が、ここ石川にはあった。

<制作・文責>管次郎・タイプリュータ
<デザイン>かっくん
<監修>九条、みいはあ

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