2012年4月3日、石川県の金沢競馬場で、一風変わった名前のレースが開催された。
「ずっこけグランゼーラ杯」
これは、自分たちの会社の名前を冠したレースに己のプライドと小金を賭けた、
誇り高き革命戦士たちの物語である。
ある日の作戦会議室
3月下旬、グランゼーラ作戦本部内のミーティングスペース。金沢ライフマップの次回のテーマを決める会議は喧々諤々の様相を呈するのが常であるが、この日の会議はいつにもまして一段と異様な雰囲気に包まれていた。その発端は、プロデューサーの提案したムチャな思いつき。いわく、
- 次回の金沢ライフマップのテーマを金沢競馬場とする
- 金沢競馬場で、我が社の名前を冠したレースを開催する
- そのレースで、各自ポケットマネーを使って馬券を買う
- 買った馬券を写真に撮って、ライフマップのネタとして使う
…以上、各自の臨機応変な判断で任務を遂行されたし。
スタッフの中で馬券の購入経験があるのはただ一人。熱く競馬のロマンを語りあげるプロデューサーに、皆の冷たい視線が浴びせかけられる。
「単に競馬ファンのプロデューサーの趣味を満たしたいだけではないのか?」
そんな考えが一同の頭に渦巻く。
「その費用はどんな科目で計上するんですか!?」
さすがに泡を食うビンワン経理担当者。
「広告宣伝費に決まってるだろ!」
怒号を飛ばすプロデューサー。いったいなんなんだこの会社は。
そんな戦慄したミーティングスペースの中にあって、一人すでに腹を決めていた筆者。この人が言い出したことなら、やらねばなるまい。筆者の頭の中では、綿密な計画が構築され始めていた。
(…競馬といえば、ウワサによると万馬券というものが存在するらしい。しめしめ、それを買えば一儲けできるぞ!)
というわけで今回の金沢ライフマップは、革命戦士たちがひとときの夢を見、そして散っていった、ずっこけグランゼーラ杯一そしてその夢の舞台となった、金沢競馬場についてご紹介しよう。
今回の記事の読み方
今回の記事内容には、競馬を知らない方向けの解説も含まれます。その部分には見出しの頭に★印を打っておりますので、競馬に詳しい方は読み飛ばしていただきますよう、何卒お願い申し上げます。
行ってきました、金沢競馬場
なんだかんだでレース当日。4月3日(火)、全国的に強風が吹き荒れた一日だった。エイプリルを4月1日に開催できなかった我々の心境を映し出すかのような風模様の中、調査隊一同は通常の業務を午前中に終え、午後の仕事現場である金沢競馬場へと向かった。
グランゼーラから 20 分弱、北西の日本海方向を目指して進んでいくと、やがて市街地から外れて田園地帯となる。そんなのどかな場所のド真ん中に、巨大なスタジアムがそびえ立っている。これこそが金沢競馬場―本州日本海側唯一の地方競馬場だ。
それではさっそく、金沢競馬場の中を見て回ることにしよう。
レースコースとその内側
競馬場の命といえば、やはりレースコース。競馬の予想には、この走路の性質を把握することが欠かせないらしい。
きめ細かな距離設定のできる走路
金沢競馬場の本走路は、右回り・1周 1200m(直線 236m)。すべてのコーナーに発走地点があるため、レースによって 10 種類もの距離 (900m / 1300m/ 140m/ 1500m/ 1700m/ 1900m/ 2000m/2100m/ 2300m/ 2600m)を設定することができる。砂質は川砂で、高低差の小さい平坦なコースだ。最大出走頭数は12頭。
瓦屋根をあしらった大型ビジョン
コースの内側に設置された大型映像表示装置と着順掲示板には、加賀百万石をイメージした瓦屋根があしらわれている。
コースの内側には遊園地
コースの内側に設けられた広い遊園地。競走馬を間近に見ながら、様々な遊具で楽しむことができる。ぜひ家族連れでどうぞ。
迫力のスタンド棟
鉄筋コンクリート造3階建てで、全館冷暖房完備のスタンド。約 15000人を収容でき、最大 120ヵ所の馬券販売窓口が稼働する。
やすらぎの畳席
ゴール前付近には畳席も。空いているときなら、寝転びながら競馬を観戦することもできる。
VIPのための特別観覧席
2階には 1000 円で座れる特別観覧席がある。ペア席にテーブルが備わり、無料のソフトドリ 「ンクサービスがついている。
競馬場グルメに舌鼓
場内には 13もの飲食店が軒を並べ、中には職人が目の前で握る本格的な寿司屋も。しかし、筆者の懐にはそれほど余裕があるわけではない。そんなところに立ち寄って軍資金を減らすわけにはいかないのである。ということで筆者が立ち寄ったのは、場内軽食堂街に位置するたこ焼き・お好み焼き・焼きそばの店。目玉焼そばをいただいた。
見渡す限りの駐車場
金沢競馬場に訪れて最初に目の当たりにする、広い広い駐車場。面積は 11万㎡以上(東京ドームの約2.4倍)で、収容台数は5000台を超える。
入場門と両替機と逆両替機
金沢競馬場内への入場料は 100円。100円玉を持っていない方のために、入場門付近には「両替機」と並んで「逆両替機」が設置されている。逆両替機では、10円玉や50円玉を投入して、100円玉に両替することができるのだ。
地方競馬としての特色
★運営母体
日本では、2012年3月現在、26カ所の競馬場が運営されている。そのうちの10 ヵ所は日本中央競馬会(JRA) の運営する「中央競馬」、残りの 16ヵ所は地方公共団体などの運営する「地方競馬」である。
左の表を見てもわかるとおり、 金沢競馬場は、日本で唯一、複数の団体が主催している競馬場。日によって、石川県が開催する日もあれば、金沢市が開催する日もある。ちなみに今回のグランゼーラ杯は、石川県による開催。ありがとう谷本正憲石川県知事。
賞金総額1億円以上のレースがやってくる!
2013年に金沢競馬場で開催が予定されている、第13回ジャパンブリーディングファームズカップ(JBC)。これは毎年全国の地方競馬場で持ち回り開催されているレースで、満を持して金沢にやってきた形だ。日本中央競馬会の格付けでは最高レベルの「JpnI」で、一着となった賞金は8000万円、このランクのレースが開催されるのは金沢競馬場史上初めてのころだという。
レースに好きな名前をつけよう!
金沢競馬場では、競馬をより身近に感じてもらうことを目的として、「冠レース」 を実施している。冠レースとは、協賛品 (勝利騎手などへの賞品)を提供することで、そのレースの名前をつけることが できるというもの。個人でも法人でも応募することができる。
冠レースは、金沢競馬場以外にもいくつかの地方競馬場や競艇場・競輪場で行われており、全国各地でユニークな名前のレースがしばしば開催されている。
費用、1~2万円
金沢競馬場で、個人として冠レースを開催する場合、協賛品として勝利騎手への賞品が必要。1レース当たり1万円程度で、現金、生もの、過大な大きさのもの以外なら何でもOK。法人の場合は、勝利騎手に加えて勝利調教師への賞品も同様に必要となる(合計で2万円)。ずっこけグランゼーラ杯開催前後には、各方面から「すごいね、何百万円もかかるんだろうね」などと言っていただいたものだ。そんなときは「ええ、まあ」と答えるようプロデューサーから厳命されていた。こんなにリーズナブルな価格で開催できるということは、どうかここだけの話にとどめておいていただきたい。
協賛主の特権
冠レースには、レースの命名権以外にも様々な特典がついてくる。
①レース勝利騎手のサイン色紙をプレゼント。
②レース映像をDVD-Rに収録。
③4名まで、入場料は無料で特別観覧席(フリードリ ンク付き)を利用可能。
④大型映像装置及び競走番組表に、各種メッセージを放映・掲載可能。
⑤場内のスペースを活用して、各種企画を実施可能。
⑥レース名が表中の媒体に掲載。
はじめての競馬講座~馬券の種類について~
金沢競馬場で発売している馬券(正式名称:勝馬投票券)の種類は、中央競馬と同じ8種類。ここでは競馬を知らない方のため、それぞれの馬券の種類について、独自に調査した内容を紹介しよう。
★「馬番」と「枠番」
それぞれの馬券の種類の説明に入る前に、まずは「馬番」と「枠番」という概念について説明しておきたい。
★馬番
馬番とは、全出走馬に単純に番号を振り分けたもの。当然、出走頭数によって番号の数が変わる。出走頭数が10頭なら番号は1~10番になり、18頭なら1~18番になる。ほとんどの馬券で、この馬番が利用される。
★枠番
「枠」とは、全出走馬を8つのグループに分けたもの。その番号が枠番となる。出走馬が8頭以下の場合は馬番=枠番となるが、9頭以上になると、同じ枠番に複数の馬が属するようになる。それぞれの枠は色分けされており、騎手がつけるヘルメットの色はこの枠によって決められている。
★馬券の種類
★単勝
選んだ馬番の競走馬が1着になると的中。わかりやすい。
★複勝
選んだ馬番の競走馬が1着~3着に入ると的中。当たりやすいが、配当は低い。
★馬番連復(馬連)
2頭の馬番を選び、それらの馬が1着と2着になれば的中。どちらが1着でどちらが 2着でもOK。
★馬番連単(馬単)
馬連と似ているが、こちらは1着と2着の着順も的中させなければならない。
★枠番連複(枠連)
馬連と似ているが、こちらは馬番ではなく枠番を選ぶ。
★ワイド
2頭の馬番を選び、それらの馬が2頭とも1着~3着に入れば的中。
★3連復
3頭の馬番を選び、それらの馬が1~3着になれば的中。馬連と同様、着順は関係なし。
★3連単
3連複と似ているが、こちら は1~3着の着順も的中させなければならない。最も当たりにくいが、配当は高い。
赤字続きだ!金沢競馬場 しかし不死鳥のごとく
かつての第一次競馬ブーム(※1)まっただ中の 1975年、金沢競馬場の年間入場者 数は 120万人に達した。第二次競馬ブー ム(※2)の 1991年には、447億円の馬券 を売り上げた。しかし近年、地方競馬に吹く風は厳しい。第二次競馬ブームの過ぎ去った 2001年、 中津競馬場の廃止を皮切りに、地方競馬場の廃止ラッシュが始まった。以来、2012年4月現在までに計14ヵ所もの地方競馬場が休廃止の憂き目にあっている。そして金沢競馬場もまた、この流れに押されつつある地方競馬場のひとつだ。入場者数は約 26万人(ピーク時の約22%)、売上額は約 84億円 (ピーク時の約19%) まで減少している。
★(※1)第一次競馬ブーム
1973年、競走馬「ハイセイコー」の活躍を契機にして起こったブーム。1975 年には、中央競馬で過去最高の年間観客動員数となる延べ 1500万人を記録した。
★(※2)第二次競馬ブーム
1980年代後半~1990年代前半にかけて起こったブーム。武豊とオグリキャップの活躍、およびバブル景気との相乗効果が要因とされる。女性や子供の競馬ファンまでもが急増し、一種の社会現象となった。
グランゼーラが考える、金沢競馬復活の秘訣
そんな金沢競馬場の人気を回復させるべく、調査隊メンバーが提案する秘策の数々。ぜひこれを参考にして、第三次、第四次と、競馬ブームをガンガン巻き起こしていってほしい。
12連単馬券の導入(発案・みいはあ)
金沢競馬場の最大出走頭数である 12頭すべての着順を的中させる馬券。的中確率は単純計算で1/4億7900万1600。三百億馬券の誕生だ!
12連複馬券の導入(発案・管)
着順は関係なく、上位12頭の馬の組み合わせを的中させる馬券。的中確率は単純計算で1/1。七十馬券の誕生だ!
石川の地酒飲み放題(発案・タイプ)
「菊姫」、「天狗舞」、「手取川」など、石川県が誇る地酒の数々を無料で提供する。みんな酔っ払ってたくさん馬券を買ってくれるに違いない。
コーヒーチェーン店誘致(発案・かっくん)
スターバックスやタリーズ、ドトールなどのコーヒーチェーン店を競馬場観覧席一区画に誘致。若者の来場数も増えるに違いない。
グランゼーラが超良血馬を買って金沢競馬で走らせる(発案・九条)
ずっこけグランゼーラ杯、出走
赤字続きの金沢競馬場を元気づけたい!ただその一心で申し込んだ(あれ?そんな理由でしたっけ?)ずっこけグランゼーラ杯。あまりの強風と大雨で、本当に開催ができるのか心配されたが、かろうじて持ちこたえてくれた。
4月3日金沢競馬場・第9競走、ずっこけグランゼーラ杯。さあ、ついに開幕だ!
馬券を買おう
本気で大金を手にしようと息巻く筆者。ぜひともがんばって万馬券をゲットしなければならない。さっそく競馬情報誌を開く。
しかし競馬ド素人の悲しさ、出馬表を見たところで何を買えばいいのかまったく検討もつかない。そこで、スタンド棟内に立っている予想屋のおじさんから予想を購入してみた。
この2つの予想を見比べた筆者の脳裏に、電撃のように予想が閃いた。そして購入した馬券は、以下のとおり。
●(3連単)9ー 8― 1:2000円
●(3連単)9― 8― 2 : 2000円
●(3連単)9― 8― 4 : 2000円
●(3連単)9― 8― 6 : 2000円
●(3連単)9― 8―10 : 2000円
ロマンあふれる3連単。どれが当たっても配当は数百万円になる。ありがとうトーアウィンザー(8枠9番)。
そして馬は走り出す…
夢の跡
終わった…終わっちまったよ…
レース結果、1ー4ー9。億万長者の 夢がもろくも潰えた筆者。しかたないので当てた人間にたかるとしよう。みんな馬券を見せてみろ!
こうして、革命戦士たちのつかの間の夢は、泡と消え去った。ていうか1万円も突っ込んだのは筆者だけで、他の面々はプロデューサーを除いて全員が 1000円以下という体たらく。ちょっとは多めに買っていたプロデューサーでさえ、5600円と いうよくわからない中途半端な額。しかも、5000円は本命に突っ込みつつ も、半端の600円で大穴を狙って100円ずつボックス買いというせこい買い方をしていた。そして外していた。
とはいえ、なにも我々がヘボかったというだけの話ではない。今回の結果は大穴だったらしく、3連単はなんと 10万馬券となっていた。さすがはグランゼーラ杯、波乱は起こるべくして起こったというところか。
失意の中、会社への帰路につく行。この後、強風はますます勢いを強め、超大型台風もかくやというとんでもない天候に。ついに最終レースの第12競走は中止となった。天気も荒れ、レースも荒れ、我々の財布も荒れた、大波乱の一日であった。
編集後記
今回のライフマップ「金沢競馬場」、いかがだっただろうか。ことによると、記事の一部に、金沢ライフマップという枠組みから逸脱するような表現・言動があったと思われる向きもあるかもしれない。しかし、私はそうした意見に対して声を大にして反論したい。金沢(およびその近辺)に生きる革命戦士の生き様、そして魂の叫びを、原稿という真っ白なキャンバスの上にありのまま表現する…これこそが金沢ライフマップのあるべき姿なのではないだろうか。我々は、いつのまにか大事なことを忘れてしまってはいなかったか。さあ、初期衝動を思いだせ。凝り固まった既成概念とクシャクシャになったハズレ馬券を捨て、いざ旅立とう。金沢ライフマップは、新たな地平(ステージ)へ――。
<制作・文責>管次郎
<デザイン>かっくん
<監修>九条、みいはあ、タイプリュータ