金沢の観光ガイドなどで、兼六園・金沢城公園と並び紹介されるのが、「近江町(おうみちょう)市場」。ここでは、 日本海で捕れた新鮮な魚介類や、加賀野菜、地酒など、石川の「食」ならなんでも揃う。観光客はもちろん、地元の人もよく利用するという。今回の金沢ライフマップでは、活気ある金沢の台所「近江町市場」を紹介しよう。
金沢の中心部に、金沢ならではの食品が集う
近江町市場は、金沢駅から東側の「武蔵ヶ辻(むさしがつじ)」と呼ばれる地域の中心にある、170 を超える店舗からなる市場。石川県特産の新鮮な海産物や、加賀野菜を扱う店が多いことが特徴だ。平日の朝には地元の卸売業者、昼には地元の買い物客、そして休日には多くの観光客で賑わう、非常に活気のある市場だ。
愛称は”おみちょ”?分かれる見解
多くの観光ガイドやウェブサイトでは、近江町市場は地元の人に「おみちょ」と可愛らしく呼ばれていると紹介されている。しかし、筆者の周辺の石川県に長く暮らす人に聞いたところ、そのような呼び方をしている人は少ない。それでも、市場に行くと、「おみちょ」という呼び名はよく耳に入ってくる。どうやら石川県に住む 人でも、「近江町派」と「おみちょ派」に分かれているらしく、地元の人だからといって、皆一様に「おみちょ」と呼んでいるわけではないようだ。ぜひ、周りに石川県出身の人がいたら、どう呼ぶかを聞いてみてほしい。
長い歴史の中、「金沢の台所」を担い続ける
そもそもなぜ「近江町」なのか?
近江と言えば滋賀県。それなのに、なぜ石川・金沢の地に近江とついているのか。これには諸説あり、「稿本金沢市史しまもとかなざわしし」第三報によると ”近江国の人来たりて尾山城下に居り此処に家屋を建て、商業を営みたり、故に近江町と呼ぶ。”とある。また、「金城深秘録きんじょうしんぴろく」によ れば”昔弓師近江と云者、初めて此地に居住す、依って近江町と呼べり。“とあって、弓師の近江という人がこの地に最初に住んだことから「近江町」と呼んだとする説がある。他にも、近江の商人が建立した「近江町市媛神社」があるからなど、どれが正しい説なのかは今だにはっきりしていないが、近江の商人がその設立に深く関わっているから、という説が有力のようだ。
近江町市場の歴史をさかのぼる
近江町市場の公式サイトなどによれば、近江町市場の歴史は280年との記載がある。しかしルーツを辿っていくと、市場としてはさらに深い歴史がある事が分かった。前田利家公が金沢城に入城するころには、既に現在の金沢市扇町(おうぎまち)付近で朝市が開かれていたり、近江町より500mほど東にある、久保市乙剣宮(くぼいちおとつるぎぐう)という神社の周辺、下新町や主計町(かずえまち)には、鎌倉時代に市場集落があったと言われている。これらの分散していた市場を、享保6年(1721年)に他の地区の市場とともに近江町に集められ、現在の近江町市場を作ったと言う。
金沢の過去の姿を保つ主計町
金沢市内で、観光名所として知られる「ひがし茶屋街」とならび、重要伝統的建造物群保存地区として選定されているのが主計町だ。浅野川沿いに明治~昭和初期の住居が立ち並び、情緒あふれる雰囲気を持った街として現在に残っている。この主計町に関しては、また別の機会に詳しく取り上げたいと思う。
生まれ変わった市場
2008年、再開発事業の一環として、近江町市場の一部が市場とは思えない近代的な外観の複合ビル「近江町いちば館」に生まれ変わった。大きな交差点の一角を占めるビルのなかに、70店もの飲食店が軒を連ねており、市場だけでなく、金沢の食も楽しめる施設となった。しかし、過去の情緒あふれるアーケード街であった市場の姿を惜しむ人も多く、駐車場が併設され便利になったとは言え、この再開発には賛否両論がある。
近江町市場に行ってみよう!
金沢に来たのなら、近江町市場は外せない観光スポット。しかし、あまりに売っているものが多すぎて、どこから見たらいいのか分からない…なんて事になりがち。そこで、筆者が実際に近江町市場を巡り、オススメスポットを抜粋してみたので、参考になれば幸いである。
近江町と言えば、やはり新鮮な海産物。近江町のメインストリートとも言える「鮮魚通り」では、毎日新鮮な魚介類がズラリと並ぶ。
石川でカニと言えば「香箱ガニ」
鮮魚の他にも欠かせないのが加賀野菜。石川ならではの見慣れない野菜が店頭に並ぶさまは、他では見られない光景だ。
加賀野菜とは?
金沢市農産物ブランド協会により認定された、昭和20年以前から栽培されており、現在も主に金沢で栽培されている野菜。2012年4月1日現在で認定を受けているのは、以下の15品目。
さつまいも
(写真中央上)
さつまいもって加賀野菜なの?と思われる方も多いのではないだろうか。金沢のさつまいもは、米ぬかを肥料として栽培され、特に甘みが強い、焼き芋にピッタリの品種だ。
加賀レンコン
(写真左上)
加賀野菜の代表格で、県外にも多く出荷されている高品質なレンコン。シャキシャキとした食感は、天ぷら、酢レンコン、肉詰めなど、何にでも美味しく合う。
たけのこ
春が来たことを告げる野菜。金沢・内川地区のたけのこは「別所のたけのこ」として有名で、茹でずに食べられるほど、やわらかくエグみがない。
加賀太きゅうり
(写真左下)
実の重さが 1kgを超える、太くておおきなきゅうり。主に酢の物などに使われるが、最近では切ってそのまま食べる人も増えてきた。
金時草
(写真右上)
緑と紫のコントラストが特徴的な野菜。ねばりけがあり、酢の物、天ぷらの他、炊き込みご飯の色付けにも使われる。
加賀つるまめ
(写真右)
全国的にはフジマメの名で呼ばれる。一般的に着物によく使われるが、塩ゆでして和え物にも使える。
へた紫なす
(写真右下)
ヘタの下の部分まで紫色になる小さなナス。一夜漬けや煮物に最適で、天ぷらにもピッタリ。
金沢一本太ねぎ
非常に長く、一本の茎から複数の茎に分かれるねぎ。一般的なねぎよりやわらかく、寒くなるほどに甘みが増す。すき焼きや鍋には最適とされる。
源助だいこん
一般の大根にくらべ、やわらかく短めの品種。煮崩れしにくく、煮物やおでんに最適。
打木赤皮甘栗かぼちゃ
(写真中央)
名前の通り、赤い皮をした栗型のかぼちゃ。果肉が厚く甘いことから、食の彩りとして人気が高い。煮物、揚げ物、スープなど、様々な料理に使われる。
せり
一般のせりに比べ、非常に茎が細い品種。品質の良さから、冬の料理に彩りを加える野菜として欠かせない。和え物を酒のつまみにすると、 飲酒後の発熱を抑えるはたらきがある。
二塚からしな
ワサビに似た辛みと、ツンと鼻を抜けるような香りがある野菜。漬物にするのが一般的だが、他の料理に混ぜ合わせることで、適度な辛みが付けられる。
赤ずいき
ずいきとは、サトイモの葉と茎の部分のこと。その内茎が赤いものを赤ずいきと呼び、皮をむいて酢の物や漬物として食べられるほか、乾燥させた「干しずいき」として食べる方法もある。
くわい
「芽が出る」ということで、お祝い料理によく使用される野菜。独特のほろ苦さがあり、煮物としてよく食べられる。
金沢春菊
一般的に販売されている春菊にはない、クセのない独特の香りとやわらかさがある品種。鍋にはもちろん、おひたしなどにも適している。
※今回はこの内、旬である「加賀レンコン」「たけのこ」と安売りセール中だった「さつまいも」を使って、天丼を調理してみた。詳細は後述。
石川の鮮魚・加賀野菜を食べるなら、やはり石川の地酒で楽しみたい。近江町市場にある酒屋は、特に地酒の種類が豊富だ。
回転寿司の激戦区、石川で生き抜いてきた回転寿司屋は、どこも回転寿司とは思えぬ圧倒的なクオリティ。市場に来たのにわざわざ回転寿司なんて…と思っても、騙されたと思って入ってみて欲しい。新鮮なネタを使った寿司と、濃厚なカニ汁は、絶品の一言。
昨今ブランド化が進められている高品質石川県産の肉、能登牛・能登豚なども、近江町市場で安く買うことができる。
独自の食文化が発達した金沢ならではの、珍味も多く売られている。郷土料理である「かぶら寿司」や「フグの卵巣のぬか漬け」は、お土産にもピッタリだ。
市場では、よく店員と客が話し合っている。対面販売と呼ばれる、市場ならではの販売方式だ。そのため、価格面の相談や調理方法など、なんでも気軽に聞くことができる。むしろ、聞かなくても勝手にサービスしてくれるほどだ。筆者も市場で加 納ガニを2杯購入したが、値札に書かれていた価格から大きく値下げしてもらえたうえ、おまけとしてなまこ酢パックを2つもらえた。スーパーなどではありえない、市場ならではのサービスだ。
タイプリュータ ずっこけ料理道場
気づくと、どっさりとカニや力加賀野菜を買い込んでいた筆者。こうなったら、その全てを使って贅沢に夕食と酒落込むほかない!ということで、近江町市場の食材を使った、自宅での楽しみ方を紹介したい。美味しい海鮮や加賀野菜を買って帰って、家でのんびり映画しながら楽しむ… そのためのレシピを交えて紹介しよう。
カニの風味を楽しむ、贅沢カニ鍋・雑炊〆(3人前)
カニと言えば、やっぱり鍋!カニの出汁がたっぷり出た鍋を食べ、その後の〆にカニ雑炊をいただく大満足レシピ。
調理方法
①水1リットルにだし昆布入れ、軽く沸騰させる
②白菜1/4玉をざくぎりに、白ネギ1本を斜め切りにし、鍋に入れる
③カニの足をばらし、身が多くついた部分を野菜の上に乗せ、弱火でじっくり30分程度煮こむ
※頭と足の先の細い部分は別で使用するので取っておく
④煮込んでいる間に、先ほど取っておいた足の先を、別の鍋で出汁を取る
⑤鍋をポン酢で堪能し、キレイに食べつくす
⑥鍋の汁を中火にかけ、塩大さじ2杯、醤油大さじ1杯、かにみそ、白ネギを薄く斜め切りにしたものを入れ、1分ほど茹でる
⑦弱火にし、炊き上がった米を鍋に入れ、溶き卵をかけ、ふたを閉める
⑧10分ほどで、カニのエキスたっぷりの雑炊が完成!
ズワイガニと加賀レンコンのホイル焼き(2人前)
どうせなら、カニも加賀野菜もまとめて楽しみたい!素材の味を生かしつつ、お酒にも合うよくばりレシピ。
調理方法
①ゆでたカニの足を縦に半分に切り、加賀レンコンは輪切にする
②かにみそに塩小さじ1杯、オリーブオイル大さじ1杯を 加え混ぜ合わせる
③フライパンにオリーブオイルをしき、レンコンに軽く色がつくまで炒める
④ホイルの上に炒めたレンコンを敷き詰め、塩をまんべんなくかける
⑤レンコンの上にカニを並べ、その上からかにみそをかける
⑥グリルに入れ、20分程度弱火で焼く
⑦カニに軽く焦げ目がついたら完成!レモン汁をかけ、石川の地酒と一緒にどうぞ
旬の加賀野菜で贅沢天丼とおつまみ
新鮮な加賀野菜をで作る、贅沢ヘルシーメニュー。お酒にあうおつまみもあわせて。
調理方法
①加賀野菜をキレイに洗い、輪切りにする
②天ぷら粉を水でとき、若干ダマが残るくらいにする
(粘り気がほとんどなくなる位で良い)
③輪切りにした加賀野菜を天ぷら粉に軽く浸し、油で揚げる
④揚げている時に、並行して豚ミンチに塩小さじ1/3、醤油小さじ1/3を入れ、混ぜ合わせる
⑤混ぜた豚ミンチでレンコンの穴を塞ぎ、フライパンに オリーブオイルをしいて中火で炒める
⑥天ぷらは、軽くきつね色になったら完成
⑦ご飯に天ぷらを乗せ、めんつゆをかければ、ボリューム満点の加賀野菜天丼が完成!
加賀レンコンの肉詰めとあわせてどうぞ。
編集後記
金沢の台所、近江町市場。記事で取り上げたように、豊富な魚介類はもちろん、珍しい加賀野菜が多く扱われており、ついつい筆者も多く買い込んでしまった。その材料を目の前にして、筆者の料理魂に火がつき、なんだか後半はライフマップというより、料理記事と化してしまった。もし今回の記事に興味を持っていただけたなら、ぜひ石川に来て、新鮮な海の幸と加賀野菜を堪能していただきたい。
このライフマップの原稿が通った次の日、上司に「君、もうゲームはいいから、今度発足予定の外食事業部を任せたいんだけど」と言われる、筆者の姿があった。
ゲームを作るためにこの会社に飛び込んだ筆者だったが、ちょっと心の奥底で迷いが生じたことは秘密だ。
<制作・文責>タイプリュータ
<デザイン>かっくん
<監修>九条、みいはあ、管次郎