金沢の都心部に迫る!
金沢なんて、兼六園以外になにかあるの? …なんて、思っている人は少なくないのではないだろうか。実際、筆者も引っ越してくるまで、どんなところなのかピンと来なかった。しかし、金沢の中心部に向かってみると、伝統と最新の流行を兼ね備えた都市が広がっていた。金沢は、日本海側屈指の都市という面も持っていたのだ。今回の記事は、日本の中心である石川県、その石川県の中心金沢、その金沢のさらに中心、北陸一の商業地区「香林坊こうりんぼう」を紹介したい。
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北陸の経済と情報の発信源
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北陸一の商業地区だけあって、多くの商業施設や銀行、新聞社、放送局などが集まっている。かつての石川県下最高路線価を誇った土地でもあり、現在では金沢駅東口にその座を明け渡してしまったものの、精力的に様々な商業施設を誘致し、発展を続ける地区でもある。特に顕著なのが、銀行とマスメディアの集中。この小さな街に、日本銀行・三菱東京UFJ銀行・ 北國銀行の各支店、朝日新聞・時事通信社・福井新聞・富山テレビ・福井放送などのマスメディアも支社を構えている。
多くの人が集う流行の発信源
なんと言っても香林坊は、若者に人気の店舗が集まる場所。ファッションの聖地 KOHRINBO 109 は、109の地方初出店店舗。第1号店である渋谷店に続き、2番目の歴史の長さを誇る。香林坊が流行の発信源であり続けるのも、1985年に開業したこの店の影響が大きい。その向かい側には「お歳暮ならココ」として広く認知されている百貨店・香林坊大和や、多くのブランドショップが入る香林坊アトリオがある。
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セレブも集う、金沢のブランドストリート
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香林坊を歩いていると、多くの高級ブランドショップが目に飛び込んでくる。特に買い物をしなくても、その通りを歩きながらウィンドウショッピングに興じるだけで楽しめる、ハイセンスな街並みが特徴的だ。
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生活と歴史・伝統が共存する街
香林坊は、観光地としても中心と言える場所。すぐ近くに、金沢百万石まつりなどの様々なイベントの開催地としてよく使用される「石川県中央公園」、石川県出身作家・室生犀星むろうさいせいなどの著作が集められた「四高記念文化交流館」、旧県庁庁舎を改修し、様々な展示会が催される「しいのき迎賓館」などの観光地がある。買い物をすませた後、ふらっと観光…なんてことができるのも、金沢の魅力である。
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しいのき迎賓館を反対側からみると、また違った姿が見られる。通りに面した側の格調ある意匠はそのままに、現代的なガラス張りの施設に生まれ変わった。
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金沢観光の最前線
香林坊は、北陸鉄道バス金沢市内線のほぼ全てのバスが通過し、金沢市内の一大バスターミナルとなっている。周辺には、繁華街である片町・竪町や、観光地として有名な兼六園・21世紀美術館・近江町市場などがある。金沢の観光するなら、香林坊を拠点として、徒歩や豊富なバス網で周辺を散策するプランをオススメしたい。
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発祥は目薬から?歴史も深い商業地区
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さて、このあたりで香林坊の成り立ちについて振り返ってみよう。 香林坊というと、なんだか古風な名前が印象的だが、その通り歴史も深い。1600 年頃、比叡山の僧であった香林坊が還俗(げんぞく:僧侶をやめて俗人になること)して、この地で薬の製造販売をしていた向田家の跡を継ぎ「向田香林坊」となった。ある日向田香林坊は、夢枕で地蔵尊のお告げを受け、目薬を処方した。その目薬で、かの前田利家公の眼病を治したという。その功績を加賀藩に高く評価され、向田香林坊は名を上げることとなった。以後「香林坊家」として繁栄した事が、現在の町名の由来であるとされている。
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脇道に入ると、やすらぎの商店街へ
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大通りから一本臨道にそれると、先ほどまでの都会の喧騒から切り離される。そこは静かな「せせらぎ通り商店街」。以前紹介した「50メートル道路」の鞍月ムーンゲートへ繋がる鞍月用水路に沿って、なんとも趣深い料亭、居酒屋や喫茶店などが軒を連ねている。高級ブランドストリートのすぐ隣に、趣のある古風な通りがあるのも、金沢の魅力と言えるだろう。
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イルミネーションで彩られる雪吊り
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毎年11月~2月の間、香林坊の夜はイルミネーションで彩られる。 街路樹とその雪吊りへの電飾が行われるのが、香林坊のイルミネーション。実用性と美観を兼ね備えた、美しい街並みを見ることができるのだ。
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香林坊ルネッサンスプロジェクト
歴史・伝統と、最新の流行を兼ね備えた街、香林坊。それでも、平成に入ってから積極的に行われた香林坊の再開発プロジェクトにより、古い街並みは姿を消しつつある。そんな中、北陸新幹線開業に向け、一つのプロジェクトが発動した。「香林坊ルネッサンスプロジェクト」だ。これは、昭和の年代の古き良き街並みを、映画、食、ジオラマなどで再現し、香林坊の魅力を深化させようという動きである。古きを温め、新しきを知る。ただ大都市を真似した発展ではなく、独自性を持った金沢ならではの街として、これからも香林坊は発展を続けていくはずだ。
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編集後記
筆者が初めて香林坊を訪れたのは、2011年の5月のことだ。新生活が始まり、どこか面白い場所はないものかと、石川県中を走り回っていた時期だ。そんな中、香林坊を訪れた筆者は、歩いていて楽しそうな街を見つけられ、うれしくなった。特に目的を持たずに香林坊周辺をぶらぶらするだけでも、見るもの・遊ぶものは多く、ワクワク感がある。それでいて他の都市と違うのは、その合間に様々な伝統や歴史を垣間見れることだ。こういった、本来相容れないはずの2つの要素が共存できるというのは、金沢ならではの魅力だと言えるだろう。
<制作・文責>タイプリュータ
<デザイン>かっくん
<監修>九条、みいはあ、管次郎