金沢ライフマップ_Vol.025

心地よい春を求め、筆者が撮影に向かったのは、金沢市を流れる犀川(さいがわ)。 
桜並木が彩る美しい川を生涯愛し続けた文豪を、皆さんはご存知だろうか?

金沢ライフマップの偉大な先輩!?

―ふるさとは遠きにありて思ふもの 
 そして悲しくうたふもの  
 (室生犀星「抒情小曲集」より)

金沢生まれの日本を代表する近代文学者の一人、室生犀星(むろうさいせい)。
故郷を思う先ほど一句をはじめ、金沢での生活や風景、自然を描いた作品を多く残している。
つまり、我々グランゼーラ軍よりも先に「金沢ライフマップ」を実行していたのだ!

↑ 我々の先輩である室生犀星の銅像。

↑ 犀星の元には小鳥が。大の動物好きだったそう。

西暦 年齢 出来事
1889年 0歳 加賀藩士の子として生まれ、寺院へ養子に出される
1902年 13歳 高等小学校(現在の中学校)を中退、金沢地方裁判所に就職
1910年 21歳 文学者を目指し、上京
1935年 46歳 「あにいもうと」で文芸懇話会賞受賞、映画化される
1948年 56歳 日本芸術院会員になる
1956年 67歳 「杏っ子」で読売文学賞を受賞、映画化される
1959年 70歳 「我が愛する詩人の伝記」で毎日文化賞受賞
「かげろうの日記遺文」で野間文芸賞受賞
1961年 72歳 肺がんのため死去

表に書ききれないほどの作品を生み出した犀星。あの芥川龍之介も才能を認めたスゴイ文学者なのだ。

ペンネームの由来は「犀川」!

金沢市を悠々と流れる犀川(さいがわ)。犀川の西に住んでいたことが犀星の由来なのだ。
本名は室生照道(てるみち)という。 他にも漢詩作家の国府犀東(こくぶさいとう)、
美術評論家の坂井犀水(さかいさいすい)など、犀川は石川県出身の文化人に影響を与えているのだ。

↑ 室生犀星も愛した犀川。周辺には兼六園や、北陸最大の歓楽街・片町がある。

↑桜並木が美しい。犀星も春は桜、夏は青葉を楽しんでいたようだ。

↑犀星も歩いた犀川大橋(鉄橋)が完成したのは1924年(大正13年)。国登録有形文化財にも指定されている。

「性に目覚める頃」の思い出

―夏の日の 匹婦の腹に 生まれけり
(室生犀星)

上の句を読んだ犀星の背景には、加賀藩士と匹婦(身分の低い女性)の間に生まれた非嫡出子で、
生後すぐに雨宝院(うほういん)という寺院の養子に出された過去がある。
犀星は20年間を雨宝院で過ごした。

↑ 犀星が育った雨宝院は犀川大橋のすぐそばにある。

↑正面には小説「性に目覚める頃」の文学碑がある。犀星は犀川で水汲みを行うのが日課だったようだ。

ナンパ好きな友達の影響を受けて・・・

犀星の実体験を描いた小説「幼年時代」では、幼少期の家族とのんびり過ごした日々が描かれている。
「性に目覚める頃」は、ナンパの達人である友人の影響もあり、犀星も異性へ関心を持ち始めたという内容だ。

白桃色のかわいらしい「杏の花」

―ああ あんずよ花着け
 (室生犀星「抒情小曲集」より)

犀星の小説や詩で、たびたびでてくる杏の木(樹齢推定120年)もそのまま雨宝院に残っている。
犀星は杏の実を食べたり、美しい杏の花を見ることが楽しみだったようだ。

↑ 雨宝院の裏の犀川沿いにある杏の花。花言葉は臆病な愛・疑い・疑惑となんだか危険なフレーズである。

↑ 犀星の散歩コースだった「犀星のみち」にある「あんずの詩」の文学碑の後ろにも杏の木が。


犀星とは無縁ではあるが、21世紀美術館にも杏の木 がある。こちらはより間近で花を見ることができる。

兼六園の隠れスポット!? 「名園の落水」

「あの落水は公園で一番いいところぢやないか。」
  (室生犀星「名園の落水」より)

犀星の趣味が庭いじりということもあり、兼六園が出てくる作品も多い。
小説「名園の落水」では、下らないと思いながらも、小さな崖から落ちる水の音に心惹かれている。

↑ 瓢池(ひさごいけ)にある翠滝(みどりたき)。究極の水音を求めて6回も作り直された至高の滝なのだ。

↑翠滝の近くにある夕顔亭(ゆうがおてい)。「名園の落水」にも登場する1774年に建てられた茶室だ。

―樹間に瓢池を臨み、
 茶室の外には滝のある次第・・・
  (芥川龍之介「友人宛の手紙」より)

また、園内にかつてあった三芳庵(みよしあん)別荘に親友である芥川龍之介を連れて兼六園へ訪れている。
犀星は芥川を兼六園ファンに取り込んだのだ。

↑ 瓢池に浮かぶ三芳庵水亭。犀星や芥川が惚れた別荘からの風景は、水亭からも楽しむことができる。

犀川と日本海の出会いの地!

―ひとりあつき涙をたれ 海のなぎさにうづくまる  
 (室生犀星「海浜独唱」より)

金沢市の北西部に位置するのが金石(かないわ)。「抒情小曲集」にある海の詩はすべて金石で作成したという。
港町で栄えた地であり、犀星は故郷金沢に戻るたびこの金石にも訪れた。

↑ 手前には犀川、奥には日本海が。あぁ夕日が美しい。

↑波の音がザーッと響く。犀星もこの風景を題材に数々の作品を生み出したのだ。

また犀星は金石にある寺院・海月寺(かいげつじ)にも一時期下宿していた。
当時、金沢地方裁判所で働いていた犀星だが、20歳の時に転勤で金石の出張所に赴任してきた。


海月寺の正面。室生犀星の一句を刻んだ文学碑が 隣に建てられている。

犀星文学で描かれる金沢

犀星が愛した犀川の渚、兼六園の落水、金石の風景・・・ 実際に犀星が聴いた”音”、生の金沢を動画に収めた。
そこには、犀星文学そのままの風景が広がっていた。

エロティックな甘い蜜

ここまで金沢の犀星ゆかりの地を巡ってきたが、犀星文学のなかでも筆者のおススメは「蜜のあわれ」だ。
一言で言うと、「性欲溢れる70歳の老人が、金魚が変身した20歳くらいの女の子と遊ぶ」話である。

↑ エロティックな内容と聞き、犀星記念館を訪れた際に上司にはナイショで購入した筆者。

インパクトは凄まじいが、老人のモデルを犀星自身とすると、また見方が違ってくる。
犀星文学の中でも、内容も表現も艶がある本作は、ぜひおススメしたい。

編集後記

前回予告した2月下旬に間に合わず申し訳ありません。
皆様にお伝えしたい金沢の魅力が豊富すぎるため、テーマ選びが難航していました。

今回はライフマップ初の”人物”特集となりました。
室生犀星は自然豊かな故郷・金沢を生涯愛し続けていたようです。
そんな故郷への想いは犀星の作品からも感じることができます。
仕事で取り組んでいるはずが、いつのまにか犀星の魅力にハマってしまいました。
「蜜のあはれ」の次は何を読もうかな・・・。

<制作・文責>たい焼き

<撮影>たい焼き

<企画・統括>九条一馬

<サイトデザイン>med

<監修>ヒロさと、アーリー、よしぞう、まゆみん

<参考>青空文庫、室生犀星記念館パンフレット

<協力>代々木アニメーション学院金沢校 ナレーション: 瀬島紘久