室生犀星

心地よい春を求め、筆者が撮影に向かったのは、金沢市を流れる犀川(さいがわ)。
桜並木が彩る美しい川を生涯愛し続けた文豪を、皆さんはご存知だろうか?

金沢ライフマップの偉大な先輩!?

―ふるさとは遠きにありて思ふもの 
 そして悲しくうたふもの


(室生犀星「抒情小曲集」より)

金沢生まれの日本を代表する近代文学者の一人、室生犀星(むろうさいせい)。
故郷を思う先ほど一句をはじめ、金沢での生活や風景、自然を描いた作品を多く残している。
つまり、我々グランゼーラ軍よりも先に「金沢ライフマップ」を実行していたのだ!

↑ 我々の先輩である室生犀星の銅像。
↑ 犀星の元には小鳥が。大の動物好きだったそう。
西暦年齢出来事
1889年0歳加賀藩士の子として生まれ、寺院へ養子に出される
1902年13歳高等小学校(現在の中学校)を中退、金沢地方裁判所に就職
1910年21歳文学者を目指し、上京
1935年46歳「あにいもうと」で文芸懇話会賞受賞、映画化される
1948年56歳日本芸術院会員になる
1956年67歳「杏っ子」で読売文学賞を受賞、映画化される
1959年70歳「我が愛する詩人の伝記」で毎日文化賞受賞
「かげろうの日記遺文」で野間文芸賞受賞
1961年72歳肺がんのため死去

表に書ききれないほどの作品を生み出した犀星。あの芥川龍之介も才能を認めたスゴイ文学者なのだ。

ペンネームの由来は「犀川」!

金沢市を悠々と流れる犀川(さいがわ)。犀川の西に住んでいたことが犀星の由来なのだ。
本名は室生照道(てるみち)という。 他にも漢詩作家の国府犀東(こくぶさいとう)、
美術評論家の坂井犀水(さかいさいすい)など、犀川は石川県出身の文化人に影響を与えているのだ。

↑ 室生犀星も愛した犀川。周辺には兼六園や、北陸最大の歓楽街・片町がある。
↑桜並木が美しい。犀星も春は桜、夏は青葉を楽しんでいたようだ。
↑犀星も歩いた犀川大橋(鉄橋)が完成したのは1924年(大正13年)。国登録有形文化財にも指定されている。

「性に目覚める頃」の思い出

―夏の日の 匹婦の腹に 生まれけり


(室生犀星)

上の句を読んだ犀星の背景には、加賀藩士と匹婦(身分の低い女性)の間に生まれた非嫡出子で、
生後すぐに雨宝院(うほういん)という寺院の養子に出された過去がある。
犀星は20年間を雨宝院で過ごした。

↑ 犀星が育った雨宝院は犀川大橋のすぐそばにある。
↑正面には小説「性に目覚める頃」の文学碑がある。犀星は犀川で水汲みを行うのが日課だったようだ。

ナンパ好きな友達の影響を受けて・・・

犀星の実体験を描いた小説「幼年時代」では、幼少期の家族とのんびり過ごした日々が描かれている。
「性に目覚める頃」は、ナンパの達人である友人の影響もあり、犀星も異性へ関心を持ち始めたという内容だ。

白桃色のかわいらしい「杏の花」

―ああ あんずよ花着け

(室生犀星「抒情小曲集」より)

犀星の小説や詩で、たびたびでてくる杏の木(樹齢推定120年)もそのまま雨宝院に残っている。
犀星は杏の実を食べたり、美しい杏の花を見ることが楽しみだったようだ。

↑ 雨宝院の裏の犀川沿いにある杏の花。花言葉は臆病な愛・疑い・疑惑となんだか危険なフレーズである。
↑ 犀星の散歩コースだった「犀星のみち」にある「あんずの詩」の文学碑の後ろにも杏の木が。
犀星とは無縁ではあるが、21世紀美術館にも杏の木 がある。こちらはより間近で花を見ることができる。

兼六園の隠れスポット!? 「名園の落水」

「あの落水は公園で一番いいところぢやないか。」


(室生犀星「名園の落水」より)

犀星の趣味が庭いじりということもあり、兼六園が出てくる作品も多い。
小説「名園の落水」では、下らないと思いながらも、小さな崖から落ちる水の音に心惹かれている。

↑ 瓢池(ひさごいけ)にある翠滝(みどりたき)。究極の水音を求めて6回も作り直された至高の滝なのだ。
↑翠滝の近くにある夕顔亭(ゆうがおてい)。「名園の落水」にも登場する1774年に建てられた茶室だ。

―樹間に瓢池を臨み、
 茶室の外には滝のある次第・・・

(芥川龍之介「友人宛の手紙」より)

また、園内にかつてあった三芳庵(みよしあん)別荘に親友である芥川龍之介を連れて兼六園へ訪れている。
犀星は芥川を兼六園ファンに取り込んだのだ。

↑ 瓢池に浮かぶ三芳庵水亭。犀星や芥川が惚れた別荘からの風景は、水亭からも楽しむことができる。

犀川と日本海の出会いの地!

―ひとりあつき涙をたれ 海のなぎさにうづくまる  

(室生犀星「海浜独唱」より)

金沢市の北西部に位置するのが金石(かないわ)。「抒情小曲集」にある海の詩はすべて金石で作成したという。
港町で栄えた地であり、犀星は故郷金沢に戻るたびこの金石にも訪れた。

↑ 手前には犀川、奥には日本海が。あぁ夕日が美しい。
↑波の音がザーッと響く。犀星もこの風景を題材に数々の作品を生み出したのだ。

また犀星は金石にある寺院・海月寺(かいげつじ)にも一時期下宿していた。
当時、金沢地方裁判所で働いていた犀星だが、20歳の時に転勤で金石の出張所に赴任してきた。

海月寺の正面。室生犀星の一句を刻んだ文学碑が 隣に建てられている。

犀星文学で描かれる金沢

犀星が愛した犀川の渚、兼六園の落水、金石の風景・・・ 実際に犀星が聴いた”音”、生の金沢を動画に収めた。
そこには、犀星文学そのままの風景が広がっていた。

エロティックな甘い蜜

ここまで金沢の犀星ゆかりの地を巡ってきたが、犀星文学のなかでも筆者のおススメは「蜜のあわれ」だ。
一言で言うと、「性欲溢れる70歳の老人が、金魚が変身した20歳くらいの女の子と遊ぶ」話である。

↑ エロティックな内容と聞き、犀星記念館を訪れた際に上司にはナイショで購入した筆者。

インパクトは凄まじいが、老人のモデルを犀星自身とすると、また見方が違ってくる。
犀星文学の中でも、内容も表現も艶がある本作は、ぜひおススメしたい。

編集後記

前回予告した2月下旬に間に合わず申し訳ありません。
皆様にお伝えしたい金沢の魅力が豊富すぎるため、テーマ選びが難航していました。

今回はライフマップ初の”人物”特集となりました。
室生犀星は自然豊かな故郷・金沢を生涯愛し続けていたようです。
そんな故郷への想いは犀星の作品からも感じることができます。
仕事で取り組んでいるはずが、いつのまにか犀星の魅力にハマってしまいました。
「蜜のあはれ」の次は何を読もうかな・・・。

<制作・文責>たい焼き
<撮影>たい焼き
<企画・統括>九条一馬
<サイトデザイン>med
<監修>ヒロさと、アーリー、よしぞう、まゆみん
<参考>青空文庫、室生犀星記念館パンフレット
<協力>代々木アニメーション学院金沢校 ナレーション: 瀬島紘久

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