恐怖!秋のライフマップ担当者会議?
9月某日の革命軍参謀本部では、次回ライフマップの担当者を決める会議が開かれていた。
金沢ライフマップ制作といえば、我が革命軍のプランナーに課せられる試練としては最も過酷とされ、それは同僚の菅次郎でさえ伏し目がちになってしまうほどだ。
いつもなら私も彼と同じく、プロデューサーと目が合わぬよう視線を泳がせているところだが、今回は違う。
私はさっそうと手を挙げ、「次回のテーマは、白山スーパー林道にしましょう!」と言った。
(タイプリュータがライフマップ担当に立候補するだと?一体どういう事なんだ!?)
皆の困惑顔を見て、私は少しだけ優越感のような物を味わっていた。
実はこの時すでに、記事を成立させるだけの妙案が私の中でできあがっていたのだ。
顔がにやけそうになるのをこらえるのに必死だった。この時の私の顔はさぞやこっけいだった事だろう。
「いいねぇタイプ君!じゃあテーマはそれでいいから、ドライブネタじゃない路線で!」
九条Pが満面の笑みを浮かべて言い放った。
「じゃあよろしくね、解散!」
なんてこった!せっかくの妙案がこんなにもあっさりと封印されてしまうなんて!
まさか、この人は私がピンチにもがく様子を面白がるためにわざと?…いや、そんなまさか…
私は頭の中がまっ白になった。
…というわけで今回の金沢ライフマップのテーマは「白山スーパー林道」。
はりきってご紹介します!
霊峰・白山を駆け抜ける、スーパーな林道
グランゼーラから金沢の大動脈・国道8号線を南下し、野々市市を越えて白山市へ。その後、県道157号線へと乗り入れ、ひたすら山側へ。そうして標高500mに差し掛かろうとしたあたりに、その林道はある。走行時間にして、おおよそ1時間半。
こんな山奥に、あの兼六園に負けず劣らずの、屈指の紅葉スポットがあることをご存知だろうか。
※この記事は、石川県側から見た「白山スーパー林道」の紹介記事となりますので、岐阜県側の施設との情報差がございます。ご了承ください。
石川と岐阜を直接結ぶ、唯一の車道
白山スーパー林道は、石川県白山市と岐阜県大野郡白川村を結ぶ、標高600~1450m、全長33.3km、巾員6.5mを誇る有料の自動車専用道路(※1)である。正式には「白山林道」と言い、国道360号線の終点から岐阜県へと至る、石川県と岐阜県を直接結ぶ唯一の車道である。
近くには世界遺産である「白川郷合掌造り集落」や多くの温泉があり、春と夏には美しい草花や野鳥、秋には圧倒的な紅葉が楽しめるという、歴史や大自然が満喫できる観光道路なのだ。
※1 高速道路とは異なり、二輪車は乗り入れできないので注意が必要。
歩行者も入ることができないが、定期的に「白山スーパー林道ウォーク」と呼ばれるイベントが開催され、その期間だけは歩行者でも林道を歩いて渡ることができる。
そもそもスーパー林道って?
正式名称は、特定森林地域開発林道と呼ばれ、林業の発展や観光客誘致などを目的に整備が進められていた。しかし、山地や国立公園を横断するルートが多かったことから、各地で自然保護を目的とした反対運動を受け、現在では開発されていない。
なぜこんなところに道ができたのか
白山スーパー林道は、秘境とすら言われ手つかずだった白山の森林資源の確保や、管理保全を目的として1967年に開発が始まった。また当時悲願と言われていた、金沢から中京(岐阜・愛知)への経済交流道路という目的(※2)もあったという。
しかし、工事はほぼ断崖絶壁の斜面に2車線の道路を建造するため、ショベルカーなどの重機をヘリコプターで運ぶという極めて大掛かりなもの。さらに、自然保護を目的とした(※3)ルート変更やトンネル増設により、工事には10年もの歳月が掛かった。
その難工事の末、現在では紅葉の名所として認知され、2010年の7月には通行車両がのべ300万台を突破した。この林道開発により、1年平均で10万台近くの観光客が、白山の自然に気軽に触れ合えるようになった。
※2 現在は、2008年に全線開通となった東海北陸自動車道により、金沢市~白川村間の所要時間が約1時間と短縮され、移動には主にそちらが使用されている。
※3 動物の生息域を極力避けるようルート変更がなされ、開発初期には予定になかったトンネルが20箇所近く追加されるなど、大規模な計画変更が行われた。
高い?安い?通行料金
白山スーパー林道の通行料金は、普通自動車で片道3,150円と、観光道路にしては高めだ。しかし、全長33km、標高差1,000mを誇る林道であり、見どころは多く、1日あっても足りないほどだ。また、有料道路ではあるものの、実はUターンOK。そのため紅葉狩りなどの観光目的であれば、石川側から入って、岐阜県側の料金所の直前まで走り、そこでUターンして石川に戻ってくるという、片道料金のみで往復する使い方もできる。
ご利用は計画的に
白山スーパー林道が結ぶ白山市と白川村は、ともに特別豪雪地帯に指定されるほどの積雪量を誇る。そのため、林道の供用期間は毎年6月上旬~11月上旬と短めだ。また、白山国立公園内を通過するため、自然保護の観点から夜間は通行止めとなる。その他にも、雨や霧、風によっても通行止めとなることがある。
大自然そのものを楽しむ道路であるため、観光の際は事前に情報収集が必須である。
霊峰・白山とは?
白山スーパー林道が通る霊峰・白山。最大標高2,702mを誇る日本三霊山のひとつ(あとふたつは富士山・立山) で、日本百名山、新日本百名山、花の百名山にも数えられる。夏には石川県の郷土の花であり、ツエーゲン金沢のマークでもある「クロユリ」が大量に群生するほか、石川県の県鳥であるイヌワシも生息している。天然記念物「石徹白(いとしろ)の大杉」「岩間の噴泉塔群」も有し、遥か昔から信仰の対象にもなった、由緒正しい山だ。
車で大自然を堪能しよう!
さて、前置きはこれくらいにして、いよいよ白山スーパー林道を回ってみることにしよう。
全長33kmを誇る白山スーパー林道にはいたる所に駐車場があり、ふと車を停め山に目を移すと、その景色は圧巻の一言。ここでは、見ごろのシーズンに筆者が実際に赴いて撮影した、オススメの絶景ポイントを紹介しよう。
白山スーパー林道スポットマップ
1.中宮展示館・川の生態観察
2.しりたか滝
3.蛇谷大橋
4.親谷の湯
5.姥ケ滝(うばがたき)
6.ふくべの大滝
7.国見展望台
8.栂(とが)の木台
9.三方岩(さんぽういわ)駐車場
10.路肩の駐車スペース
11.白川郷展望台
走破!白山スーパー林道
美しい景色を眺め、清々しい気分に浸る筆者。しかし、何かを忘れているような…そうだ、このアップダウンが激しく、大きく曲がりくねった道。これこそが、白山スーパー林道を今回のテーマに選んだ最大の理由ではなかったか。
革命軍参謀本部からは、厳重にドライブネタを封印されているが、ここは現世から切り離された、いわば秘境。さすがの参謀本部も、ここでの筆者の行動までは関知するまい。
愛車が、この急勾配を、急カーブを攻略せよと呼んでいる。ならば、その思いに答えねばならない。筆者は愛車の運転席へと乗り込み…
革命軍戦士として法律に違反するようなことがあってはならないため、制限速度を順守して走行しております
禁忌を破りし者
結局、気づけば自分の欲望に負け、あっさりと禁止されていたドライブネタを使ってしまっていた筆者。このまま戻っては、司令官に拷問されてしまう。
どうにかごまかす方法はないかと、清流に足をつけ思案を巡らせる…。
しかし、そう簡単にいい案など思いつくはずもない。
少し歩いてみれば、何か降りてくるだろうか?…そう考えた筆者は、ざぶざぶと川の中ほどまで歩を進める。
…と、川底の石が少し転がり、体勢が崩れる筆者。直後、とても冷たいものが筆者を包み込む。一瞬、なにが起こったのか分からなかった。慌てて立ち上がり、川に倒れ込んだことにようやく気づいた。
なんてことだ。なんでこんな目に…きっと、うまくごまかそうとか、言い訳を考えていたから天罰が下ったのだろう。
…もうダメだ、司令部に戻って素直に謝ろう。きっと拷問されるに違いないが、変にごまかしてバレるよりはよっぽどマシなはずだ。
編集後記
濡れ鼠となった身体を乾かし、愛車に乗り込んだ。なんだか全身が熱っぽいが、これはきっと大自然のパワーなのだろう。さすが、霊峰と名高い白山だ。会社に戻ってからの拷問を考えると気が重いが、どこかすがすがしい気持ちで、白山スーパー林道を出た。すると、目の前には合掌造りの集落が姿を表した。世界遺産・白川郷合掌造り集落だ。車を停め、昔話に迷い込んだような集落へと歩く。こんな集落で生活したことなどないはずなのに、どこか懐かしく、心に染みた。
まもなく夜になる。明日から、また革命軍での戦いが始まる。今回の取材で感じた大自然と、白川郷が思い出させてくれた心の原風景を忘れぬよう胸に刻み込み、帰宅した。
白山スーパー林道が冬季閉鎖となるまで、あと2週間。標高の高い地点は紅葉が終わりつつあるものの、これからふくべの大滝を始めとした、石川県側の名スポットが紅葉を迎える。ぜひこの機会に、今年最後の紅葉をご覧いただきたい。
<制作・文責>タイプリュータ
<デザイン>かっくん、タケやん
<監修>九条、みいはあ、管次郎
<参考文献>北國新聞社(1977) 国立公園 白山周遊300キロ 秘境スーパー林道開通
<高山植物写真提供>まゆみん