金沢ライフマップ_Vol.011
金沢の観光ガイドなどで、兼六園・金沢城公園と並び紹介されるのが、「近江町おうみちょう市場」。ここでは、 日本海で捕れた新鮮な魚介類や、加賀野菜、地酒など、石川の「食」ならなんでも揃う。観光客はもちろん、地元の人もよく利用するという。今回の金沢ライフマップでは、活気ある金沢の台所「近江町市場」を紹介しよう。

金沢の中心部に、金沢ならではの食品が集う

近江町市場は、金沢駅から東側の「武蔵ヶ辻むさしがつじ」と呼ばれる地域の中心にある、170 を超える店舗からなる市場。石川県特産の新鮮な海産物や、加賀野菜を扱う店が多いことが特徴だ。平日の朝には地元の卸売業者、昼には地元の買い物客、そして休日には多くの観光客で賑わう、非常に活気のある市場だ。

石川県の玄関口である金沢駅や、繁華街の香林坊からも徒歩15分またはバス5分ほどで、アクセスも簡単。兼六園や金沢城観光と合わせて楽しめる

愛称は”おみちょ”?分かれる見解

呼び名について、分かれる見解。決着がつく日がくるのだろうか

多くの観光ガイドやウェブサイトでは、近江町市場は地元の人に「おみちょ」と可愛らしく呼ばれていると紹介されている。しかし、筆者の周辺の石川県に長く暮らす人に聞いたところ、そのような呼び方をしている人は少ない。それでも、市場に行くと、「おみちょ」という呼び名はよく耳に入ってくる。どうやら石川県に住む 人でも、「近江町派」と「おみちょ派」に分かれているらしく、地元の人だからといって、皆一様に「おみちょ」と呼んでいるわけではないようだ。ぜひ、周りに石川県出身の人がいたら、どう呼ぶかを聞いてみてほしい。

長い歴史の中、「金沢の台所」を担い続ける

そもそもなぜ「近江町」なのか?

近江と言えば滋賀県。それなのに、なぜ石川・金沢の地に近江とついているのか。これには諸説あり、「稿本金沢市史しまもとかなざわしし」第三報によると ”近江国の人来たりて尾山城下に居り此処に家屋を建て、商業を営みたり、故に近江町と呼ぶ。”とある。また、「金城深秘録きんじょうしんぴろく」によ れば”昔弓師近江と云者、初めて此地に居住す、依って近江町と呼べり。“とあって、弓師の近江という人がこの地に最初に住んだことから「近江町」と呼んだとする説がある。他にも、近江の商人が建立した「近江町市媛神社」があるからなど、どれが正しい説なのかは今だにはっきりしていないが、近江の商人がその設立に深く関わっているから、という説が有力のようだ。

市場の目の前にある「近江町市媛神社」。商いの祖神(そしん)が祀られている

近江町市場の歴史をさかのぼる

前田家の御善処(ごぜんしょ)として、現在の位置に市場が集められ、現在の近江町市場となった

近江町市場の公式サイトなどによれば、近江町市場の歴史は280年との記載がある。しかしルーツを辿っていくと、市場としてはさらに深い歴史がある事が分かった。前田利家公が金沢城に入城するころには、既に現在の金沢市扇町おうぎまち付近で朝市が開かれていたり、近江町より500mほど東にある、久保市乙剣宮くぼいちおとつるぎぐうという神社の周辺、下新町や主計町かずえまちには、鎌倉時代に市場集落があったと言われている。これらの分散していた市場を、享保6年(1721年)に他の地区の市場とともに近江町に集められ、現在の近江町市場を作ったと言う。

金沢の過去の姿を保つ主計町

金沢市内で、観光名所として知られる「ひがし茶屋街」とならび、重要伝統的建造物群保存地区として選定されているのが主計町だ。浅野川沿いに明治~昭和初期の住居が立ち並び、情緒あふれる雰囲気を持った街として現在に残っている。この主計町に関しては、また別の機会に詳しく取り上げたいと思う。

浅野川沿いに立ち並ぶ、雪の主計町の伝統的な家屋

久保乙剣宮がある主計町の情緒ある風景。鎌倉時代には、このあたりは市場で賑わっていたという

生まれ変わった市場

この近代的な建物の中に、活気あふれる市場がある

2008年、再開発事業の一環として、近江町市場の一部が市場とは思えない近代的な外観の複合ビル「近江町いちば館」に生まれ変わった。大きな交差点の一角を占めるビルのなかに、70店もの飲食店が軒を連ねており、市場だけでなく、金沢の食も楽しめる施設となった。しかし、過去の情緒あふれるアーケード街であった市場の姿を惜しむ人も多く、駐車場が併設され便利になったとは言え、この再開発には賛否両論がある。

近江町市場に行ってみよう!

近江町市場がある武蔵交差点は、金沢の交通の要所。多くのバスが通るため、アクセスも容易なほか、向かい側には「めいてつエムザ」、「金沢スカイホテル」がある

金沢に来たのなら、近江町市場は外せない観光スポット。しかし、あまりに売っているものが多すぎて、どこから見たらいいのか分からない…なんて事になりがち。そこで、筆者が実際に近江町市場を巡り、オススメスポットを抜粋してみたので、参考になれば幸いである。

近江町いちば館の駐車場なら、市場で買い物をすると駐車代が割引になるのでオススメ



近江町と言えば、やはり新鮮な海産物。近江町のメインストリートとも言える「鮮魚通り」では、毎日新鮮な魚介類がズラリと並ぶ。
 石川でカニと言えば「香箱ガニ」 

冬に近江町市場に来たのなら、ぜひ味わってもらいたいのが「香箱(こうばこ)ガニ』。石川県産のメスのズワイガニに付けられる名前で、小ぶりな体に詰まった身と卵は、まさに絶品。「冬の赤い宝石箱」と呼ばれることも。漁が解禁になるのは11月初旬~1月初旬と非常に短期間なうえ、ほとんどが石川県内で消費されてしまう激レア食材。今回の取材では入手できなかったが、旬の季節には入手が容易なため、わざわざこの為に石川に来る人もいるほどの特産品だ。

通常のズワイガニの漁期は毎年11月6日~3月20日までに 対し、メスである香箱ガニは保護の観点から、1月6日まで と大幅に短い。このため、石川県内では毎年漁が解禁になると、市場はもちろん、一般のスーパーにまで一斉に香箱 ガニが並び、多くの地元の人が買いに来る。香箱ガニが店 に並ぶ光景を見て、冬の訪れを感じる人も少なくないはずだ。


鮮魚の他にも欠かせないのが加賀野菜。石川ならではの見慣れない野菜が店頭に並ぶさまは、他では見られない光景だ。

 加賀野菜とは? 
金沢市農産物ブランド協会により認定された、昭和20年以前から栽培されており、現在も主に金沢で栽培されている野菜。2012年4月1日現在で認定を受けているのは、以下の15品目。

さつまいも (写真中央上)
さつまいもって加賀野菜なの?と思われる方も多いのではないだろうか。金沢のさつまいもは、米ぬかを肥料として栽培され、特に甘みが強い、焼き芋にピッタリの品種だ。
加賀レンコン(写真左上)
加賀野菜の代表格で、県外にも多く出荷されている高品質なレンコン。シャキシャキとした食感は、天ぷら、酢レンコン、肉詰めなど、何にでも美味しく合う。
たけのこ
春が来たことを告げる野菜。金沢・内川地区のたけのこは「別所のたけのこ」として有名で、茹でずに食べられるほど、やわらかくエグみがない。
加賀太きゅうり(写真左下)
実の重さが 1kgを超える、太くておおきなきゅうり。主に酢の物などに使われるが、最近では切ってそのまま食べる人も増えてきた。
金時草(写真右上)
緑と紫のコントラストが特徴的な野菜。ねばりけがあり、酢の物、天ぷらの他、炊き込みご飯の色付けにも使われる。
加賀つるまめ(写真右)
全国的にはフジマメの名で呼ばれる。一般的に着物によく使われるが、塩ゆでして和え物にも使える。
ヘタ紫なす(写真右下)
ヘタの下の部分まで紫色になる小さなナス。一夜漬けや煮物に最適で、天ぷらにもピッタリ。
金沢一本太ねぎ
非常に長く、一本の茎から複数の茎に分かれるねぎ。一般的なねぎよりやわらかく、寒くなるほどに甘みが増す。すき焼きや鍋には最適とされる。
源助だいこん
一般の大根にくらべ、やわらかく短めの品種。煮崩れしにくく、煮物やおでんに最適。
打木赤皮甘栗かぼちゃ(写真中央)
名前の通り、赤い皮をした栗型のかぼちゃ。果肉が厚く甘いことから、食の彩りとして人気が高い。煮物、揚げ物、スープなど、様々な料理に使われる。
せり
一般のせりに比べ、非常に茎が細い品種。品質の良さから、冬の料理に彩りを加える野菜として欠かせない。和え物を酒のつまみにすると、 飲酒後の発熱を抑えるはたらきがある。
二塚からしな
ワサビに似た辛みと、ツンと鼻を抜けるような香りがある野菜。漬物にするのが一般的だが、他の料理に混ぜ合わせることで、適度な辛みが付けられる。
赤ずいき
ずいきとは、サトイモの葉と茎の部分のこと。その内茎が赤いものを赤ずいきと呼び、皮をむいて酢の物や漬物として食べられるほか、乾燥させた「干しずいき」として食べる方法もある。
くわい
「芽が出る」ということで、お祝い料理によく使用される野菜。独特のほろ苦さがあり、煮物としてよく食べられる。
金沢春菊
一般的に販売されている春菊にはない、クセのない独特の香りとやわらかさがある品種。鍋にはもちろん、おひたしなどにも適している。

※今回はこの内、旬である「加賀レンコン」「たけのこ」と安売りセール中だった「さつまいも」を使って、天丼を調理してみた。詳細は後述。



石川の鮮魚・加賀野菜を食べるなら、やはり石川の地酒で楽しみたい。近江町市場にある酒屋は、特に地酒の種類が豊富だ。


回転寿司の激戦区、石川で生き抜いてきた回転寿司屋は、どこも回転寿司とは思えぬ圧倒的なクオリティ。市場に来たのにわざわざ回転寿司なんて…と思っても、騙されたと思って入ってみて欲しい。新鮮なネタを使った寿司と、濃厚なカニ汁は、絶品の一言。


昨今ブランド化が進められている高品質石川県産の肉、能登牛・能登豚なども、近江町市場で安く買うことができる。

独自の食文化が発達した金沢ならではの、珍味も多く売られている。郷土料理である「かぶら寿司」や「フグの卵巣のぬか漬け」は、お土産にもピッタリだ。

塩漬けにしたカブで、塩漬けにしたブリの薄切りを挟み込み、細く切った人参や昆布などとともに、米麴(糀)で漬け 込んで銀酵させたお寿司。このかぶら寿司は、魚を米と塩で発酵させた「なれずし」の一種であり、発酵の段階で米はほとんど液状化してしまうため、米はほとんど残らない。 実は、寿司の原型とも呼ばれるほど古い歴史がある料理方法で、現在の主流であるにぎり寿司を中心とした江戸前寿司とは全く違う寿司である。独特の風味と食感が特徴で、酒の肴として人気が高い。

全国でも、金沢市の大野・金石(かないわ)地区および、白山市美川地区でのみ作られている、白ご飯やお酒にピッタリの珍味。フグの卵巣といえば、青酸カリの 850倍もの毒性をもつテトロドトキシンが含まれている猛毒部位。ゴマフグの卵巣を取り出したあと、卵巣の大きさに対し 30%もの塩を加えて1~1年半漬け込んだ後、ぬか、米こうじ、唐辛子とともにさらに2年漬け込み、出荷される。なぜフグの毒が減毒され食べられるようになるのかは、いまだによくわかっていないという…



市場では、よく店員と客が話し合っている。対面販売と呼ばれる、市場ならではの販売方式だ。そのため、価格面の相談や調理方法など、なんでも気軽に聞くことができる。むしろ、聞かなくても勝手にサービスしてくれるほどだ。筆者も市場で加 納ガニを2杯購入したが、値札に書かれていた価格から大きく値下げしてもらえたうえ、おまけとしてなまこ酢パックを2つもらえた。スーパーなどではありえない、市場ならではのサービスだ。

店先に並ぶたくさんの加納ガニ。加能ガニとは、石川県産のズワイガニにつけられるブランド名で、認定されたことを証明する青いタグがついている

購入した大きなカニと、おまけのなまこ酢。白菜と白ネギも手に入れ、晩餐の準備は整った

タイプリュータ ずっこけ料理道場

気づくと、どっさりとカニや力加賀野菜を買い込んでいた筆者。こうなったら、その全てを使って贅沢に夕食と酒落込むほかない!ということで、近江町市場の食材を使った、自宅での楽しみ方を紹介したい。美味しい海鮮や加賀野菜を買って帰って、家でのんびり映画しながら楽しむ… そのためのレシピを交えて紹介しよう。

 カニの風味を楽しむ、贅沢カニ鍋・雑炊〆(3人前) 

カニと言えば、やっぱり鍋!カニの出汁がたっぷり出た鍋を食べ、その後の〆にカニ雑炊をいただく大満足レシピ。

調理方法

①水1リットルにだし昆布入れ、軽く沸騰させる
②白菜1/4玉をざくぎりに、白ネギ1本を斜め切りにし、鍋に入れる
③カニの足をばらし、身が多くついた部分を野菜の上に乗せ、弱火でじっくり30分程度煮こむ
※頭と足の先の細い部分は別で使用するので取っておく
④煮込んでいる間に、先ほど取っておいた足の先を、別の鍋で出汁を取る
⑤鍋をポン酢で堪能し、キレイに食べつくす
⑥鍋の汁を中火にかけ、塩大さじ2杯、醤油大さじ1杯、かにみそ、白ネギを薄く斜め切りにしたものを入れ、1分ほど茹でる
⑦弱火にし、炊き上がった米を鍋に入れ、溶き卵をかけ、ふたを閉める
⑧10分ほどで、カニのエキスたっぷりの雑炊が完成!


 ズワイガニと加賀レンコンのホイル焼き(2人前) 

どうせなら、カニも加賀野菜もまとめて楽しみたい!素材の味を生かしつつ、お酒にも合うよくばりレシピ。

調理方法

①ゆでたカニの足を縦に半分に切り、加賀レンコンは輪切にする
②かにみそに塩小さじ1杯、オリーブオイル大さじ1杯を 加え混ぜ合わせる
③フライパンにオリーブオイルをしき、レンコンに軽く色がつくまで炒める
④ホイルの上に炒めたレンコンを敷き詰め、塩をまんべんなくかける
⑤レンコンの上にカニを並べ、その上からかにみそをかける
⑥グリルに入れ、20分程度弱火で焼く
⑦カニに軽く焦げ目がついたら完成!レモン汁をかけ、石川の地酒と一緒にどうぞ



 旬の加賀野菜で贅沢天丼とおつまみ 

新鮮な加賀野菜をで作る、贅沢ヘルシーメニュー。お酒にあうおつまみもあわせて。

調理方法

①加賀野菜をキレイに洗い、輪切りにする
②天ぷら粉を水でとき、若干ダマが残るくらいにする
(粘り気がほとんどなくなる位で良い)
③輪切りにした加賀野菜を天ぷら粉に軽く浸し、油で揚げる
④揚げている時に、並行して豚ミンチに塩小さじ1/3、醤油小さじ1/3を入れ、混ぜ合わせる
⑤混ぜた豚ミンチでレンコンの穴を塞ぎ、フライパンに オリーブオイルをしいて中火で炒める
⑥天ぷらは、軽くきつね色になったら完成
⑦ご飯に天ぷらを乗せ、めんつゆをかければ、ボリューム満点の加賀野菜天丼が完成!
加賀レンコンの肉詰めとあわせてどうぞ。



編集後記

金沢の台所、近江町市場。記事で取り上げたように、豊富な魚介類はもちろん、珍しい加賀野菜が多く扱われており、ついつい筆者も多く買い込んでしまった。その材料を目の前にして、筆者の料理魂に火がつき、なんだか後半はライフマップというより、料理記事と化してしまった。もし今回の記事に興味を持っていただけたなら、ぜひ石川に来て、新鮮な海の幸と加賀野菜を堪能していただきたい。

このライフマップの原稿が通った次の日、上司に「君、もうゲームはいいから、今度発足予定の外食事業部を任せたいんだけど」と言われる、筆者の姿があった。
ゲームを作るためにこの会社に飛び込んだ筆者だったが、ちょっと心の奥底で迷いが生じたことは秘密だ。

<制作・文責>タイプリュータ

<デザイン>かっくん

<監修>九条、みいはあ、管次郎